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First Love 1
オレは弟になりかけた事がある。
4年ちょっと前、小学校5年生の時、母が再婚寸前まで行った。結局相手の人が転勤になって、それが原因で別れたようだった。
それ自体は大人同士の問題だから、オレが口を出す事じゃないし別にどっちでもよかった。オレはずっと母と二人暮らしで、父親は写真すら見た事がないから『お父さん』というのがどういうものなのか、正直よく分からなかった。
ただ、相手の人のオレと同い年の息子とは割と気が合って楽しかったから、彼にもう会えないのはすごく残念だった。
特に学校から帰って、家で母の帰りを待つ時間。もし彼と兄弟になっていたら1人で待たなくても良かったのにと、今まで以上に淋しく感じた。
彼は無愛想で、最初こそ取っ付きにくかったけれど、慣れれば優しくて、オレよりもずっと頭も良かったから宿題を教えてもらったりもしたし、こんなお兄ちゃんがいたらいいなと思っていた。
もうすぐ春休みになろうという頃、初夏にあるうちの近所のお祭りに一緒に行こうと約束をした。
それが彼に会った最後の日になるなんて、思ってもいなかった。
*
高校生活にもすっかり慣れた秋の始まり。
日に日に空が高くなって過ごしやすくなってきていた。
4時限目終了のチャイムが鳴って、教室が一気にざわめいた。オレを含め弁当無し組は先を争って学食及び購買へ急ぐ。
今日はパン!できれば焼きそばパン!
でも購買のパン争奪戦はキビしい。オレは小柄な方なので押し負ける。上手く前に進まないと外に弾き出されたりする。一応列に並ぶ事になってるけど、あまり機能していない。弱肉強食なのだ。
到着した購買は思った通りすでに混み合っていた。
いざいざ戦地へ!
なんて勇ましく進んでみたものの、やっぱり押し出されそうになる。
うわっ!やばっ!
大柄の人物がぐいぐいと進んできてバランスを崩してしまった。
転ぶっ!
…あれ?誰だ?この腕。
「大丈夫?」
後ろから支えてくれた腕の主に訊かれて、こくこくと頷いて応えた。
支えられたまま、どうにかしっかり立って、お礼を言うために振り返ろうとすると、
「いいから前向いて進め」
と低い声で言われて両肩を押された。押された、と言ってもオラオラな感じじゃなくて、もっと優しい感じ。後ろの人物に誘導されるように進んで最前列に到達した。
やった!焼きそばパンまだある!
無事にパンを手に入れて、今度こそ振り返った。
背の高いメガネの、オレと同じ1年生の男子。襟につけたクラスバッジには『1ーE』と記されていた。
「あ、ありがと」
オレはA組だから接点は全然ない。
「別に…」
素気なくそう言ったそいつは、くるりと踵を返して教室方面へ歩いて行った。
その背中を追うようにオレも購買を出たけれど、身長差による歩幅の差のせいなのか、あっという間に見失った。
まいっか。
誰か知らないけどありがとう、メガネくん。
おかげで一番人気の焼きそばパンをゲットできたよ。
オレはほくほくしながら階段を1段飛ばしで昇って行った。
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