秘密

11

　こんな感じなので、当然お祭りもみんなで行く事になる訳で。
　いや、オレだって最初はみんなで行きたいって思ってたはずなんだけど。

　初夏。
　キツくなってきた陽射しと、上がってきた気温。
　濃くなった緑と影。
　長くなった一日。

「えー、今日の帰りに例大祭に寄って行く人は、くれぐれも他校と揉めたり遅くなりすぎたりしないように」
　その、どの程度の抑止力があるのか分からない担任の言葉を聞き流して、オレは秘かにため息をついた。

　みんなでお祭りに行くのは毎年の楽しみだった。
　別に目新しい事がある訳じゃない。それでも毎年、邦貴たちと小遣いを握りしめてお祭りに行った。
　母は今朝、普段の小遣いの他に二千円渡してくれた。
　今日の晩飯は、お好み焼きかたこ焼きか。
　…なんでイマイチわくわくしないんだろうなあ…。

「知希、どうかした？」
　肩をぽんと叩かれて、はっとして目を上げた。
「あ、桐人。ううん、別に」
　オレの方に少し屈んだ桐人が「うん？」と言うように首を傾げた。
　その顔を見て、やっぱり少しドキドキした。

　わくわくしない理由は、なんとなく分かってる。
　オレは本当は…。

「知希！ぼんやりしてねーで行こうぜ」
　桐人の反対側から、邦貴ががばっと抱きついてきながら言う。
　見上げていた桐人のメガネの奥の目が、驚いたように見開かれた。
「分かった、分かった、行くから。暑苦しいなあ、邦貴」
　スキンシップ多めの邦貴に、桐人は慣れないのかもしれない。桐人の友人関係はそういう、わちゃわちゃした感じじゃないから。
　邦貴に抱きつかれたまま、よいしょと立ち上がる。

「チャリ、神社の脇に停めれっかなぁ？」
「まあ大丈夫っしょ」
　そんな話をしながら、邦貴に肩を組まれて昇降口へ向かった。
　桐人は高橋たちと、オレたちの後ろを歩いてきていた。

　神社に着いて、とりあえず周りの見よう見まねで手を清め、参拝した。何回も来てるのに、なんで順番とか忘れちゃうんだろうなあ。
　そんな事を考えながら手を合わせる。

　いけない。お願い事。
　あ、桐人と2人で話ができますように。
「いつまで拝んでんだよ、知希ー」
「あ、うん、今行くっ」
　これ、ご利益あるのかな？こんなバタバタしてて。

　でも神様、お願いします。
　どうか、15円分でいいから叶えてください。