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13
ついて来たそうにしている女の子たちに、桐人は何か言って背を向けてこちらに歩いて来る。女の子たちは不満そうながらも、それ以上ついては来なかった。
邦貴が桐人に何か話しかけてる。桐人は嫌そうな顔をして、邦貴をじろりと睨んだ。その鋭い視線は確かにオレといる時と違う。
それにしても、あの2人よく喋ってる気がするけど、あんまり仲良さそうじゃないんだよなあ。
「高橋はよく周りを見てるんだね。オレなんか自分の事もよく分かんないのに」
ちょっと情けない気分で高橋を見ると、高橋は薄く笑ってオレを見返した。
「まあ、自分の事は分かんないもんなんじゃない?みんなそうだと思うよ」
高橋のその返事を、知的男子な返答だなあと思いながら、みんなが集まっている広めの階段に腰掛けた。
なんとなく流れで高橋がオレの隣に座って、桐人と邦貴は俺たちより下の段に座った。
この2人を見下ろすって変な感じ。
あちこちで光っているライトで、座っている桐人の影は階段の四方八方にのびていた。
見下ろす、広い肩。
少し、鼓動が速くなる。
桐人といると、自分の心と身体が謎の反応をするからそわそわする。
でもそれが、嫌な訳じゃない。
ただ、ちょっと困る。
そんな事を考えていたら、割り箸が変な割れ方になってしまった。高橋に「大丈夫?」と訊かれて「大丈夫」と応えたものの、結構食べづらかった。
食べ終わった透明のプラスチックのパックを袋に戻して持ち手を縛った。みんなも同じような事をしてる。
「おーっし、ジャンケンで負けたやつがゴミ捨てー!はーい、最初はグー!」
邦貴の号令でみんなが手を出した。
「ジャンケンポン!」
「あ」
パーばっかりの中にグーが2人。
オレと桐人。
うわっ、神様ありがとう!!
ゴミ捨て係ってところが15円分って感じだな。
一応「えー?」とか言いながら、みんなのゴミを集めた。
両手にレジ袋やペットボトルなんかをいっぱい持って、桐人と並んでゴミ捨て場に向かう。そんなに遠くなくてむしろ残念だ。
「桐人、こっち戻って来てからお祭り来た?」
見上げながら訊いてみる。
「いや、来てない。ほら、俺の方の友達は遊びの勢いが弱いから」
「あはは、オレらは遊ぶ時は全力だからさ。これからもたぶん全力で巻き込んでいくんだと思うよ」
楽しみにしてるよと桐人が言ってホッとした。
でも同時に、ホントは2人がいいんだけどとチラリと思った。
ゴミを捨てて戻ろうとしたオレに、
「あ、知希。手ぇ洗いに行こうぜ」
と桐人が声をかけて、すぐそこの公園の水道を指差した。
「う、うんっ」
ボーナスタイムだ。やったー。
とか思いながら公園に向かう。
でも。
なんでだろう。言葉が出てこない。
話したい事、いっぱいあったはずなのに。
ただ胸がドキドキしてる。
公園の水道で手を洗って「あ」と思った。
「…タオル、カバンの中だー」
しまった。カバンは階段に置いたままだ。
「ほら、知希」
目の前に差し出された、ブルーグレーのハンカチ。
「あ…」
なんでだろう。嬉しいのに動けない。
濡れた手を前に出したまま固まったオレを桐人が覗き込んでくる。
思わず息が止まった。
「なんて顔してんの、お前」
「!」
うわわわわわっ!
笑いながら、桐人がオレの手を拭いてくれる。
薄いハンカチの布越しに、桐人の手がオレに触れている。
顔がぶわっと熱くなった。
桐人に拭かれている手も熱い。
唇をぎゅっと噛んで、桐人の大きな手がオレの手を拭いてくれてるのを見ていた。
心臓が苦しい。息が、上手くできない。
どうしよう。オレ、おかしい。
「はい、出来上がりー。戻ろっか、知希」
自分の手を拭いてハンカチを畳んでいく桐人の大きな手。
その手に背中をぽんと叩かれて、一際大きくどくんと鼓動が跳ねた。
どうにか頷いて桐人に応える。
良かった、暗くて。絶対、顔赤い。
秘かに深呼吸をしていると聞き慣れた声がした。
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