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「おーい。遅ぇぞ、2人ともー」
邦貴がオレと桐人のカバンを持って歩いて来ていた。
「あー、悪いな、黒田」
桐人がそう言って手を出して、自分のカバンを受け取りながらちらっと邦貴を見て、なぜかオレのカバンも邦貴の手から半ば奪うように取った、ように見えた。
「知希、ほらカバン」
「あ、うん」
なんだったんだろう、さっきの。オレの気のせいかな。
そう思いながら、
「あ、邦貴。カバン、サンキューな」
と、邦貴に向けて言った。桐人を睨むように見ていた邦貴がはっとしたようにオレを見た。
やっぱりこの2人、合わないっぽいなぁ。
1人ずつならそんな事ないけど、2人揃うと空気がギスギスする気がする。
まあ、相性は仕方ないか。
そんな事を考えている間に、うるさかった心臓はようやく落ち着いてきて、オレたちは自転車を停めた神社脇まで来ていた。
なんか光るブレスレットとかヨーヨーとか、キラキラした物を持ってるのはオレの友達だ。お祭りに来ても桐人の友達は落ち着いてる。
混ざってきたと思ってたけど、そうでもないなあ。
あの2人が合わないのも納得、てゆーか。
「また明日」と手を振って、方向別にグループに分かれて帰っていく。
ライトを付けた分重いペダル。でも途中までは桐人と同じ方向だから、むしろ遅くていいかとか思った。
あ、でも遅いと置いてかれちゃうかな。桐人漕ぐの速いし。
そう思ったけれど桐人は案外ゆっくりで、だからオレは桐人の横を走ることにした。
自転車OKの広い歩道を、数人で走っている。
前を走っている邦貴の腕で蛍光黄緑のブレスレットが光っていた。
ゆっくりめに走る桐人を、横目でちらちらと見ながら走る。
桐人も時々こっちを見るから目が合ってしまって気恥ずかしい。
そう思いながら、ゆっくりの桐人に合わせて、オレもゆっくり走る。
邦貴が遠くなる。
後ろを走っていた高橋たちが「じゃーねー」と言いながら角を曲がって行った。
なんか、2人で帰ってるみたいだ。
鼓動が速いのは、自転車を漕いでるからだけじゃないと思う。
次の角で、桐人は曲がってしまう。
明日も会えるのに、まだ一緒にいたい。
「じゃあ」と言いかけたけど、桐人は曲がらなかった。
なんで?と思って桐人の方を見ると、
「コンビニ寄る」
と、前を指差した。
あれ、でも…。
さっきの所で曲がっても、コンビニなかったっけ?
思い違いかな?
まあいいや。もうちょっと一緒に帰れるし。
別に、話とかはしないんだけど嬉しくて、自然に顔が笑ってしまうから暗くて良かったと思う。
あーあ、もうコンビニが見えてきちゃった。
あ。
暗がりの中、煌々と光るコンビニの明かりの前で、邦貴が自転車を止めてこっちを見てる。
「おっせーぞ、知希。てか、遠野なんで?」
「コンビニ」
一言だけ言って、桐人は自転車から降りた。
「じゃね、桐人」
そう声をかけると、桐人は軽く頷きながら「また」と言ってコンビニに入って行った。
そのバランスのいい長身を、名残惜しい気持ちで見送った。
「行くぞー、知希」
邦貴が振り返りながら言う。
「…うん」
ペダルを踏んで、自転車を進めた。
速く帰ろう。
「知希、お前急に速くね?」
街灯に照らされた邦貴が、ちょっと不審げな顔をしているけれど気にしない。
そうして家までぐいぐい自転車を漕いで帰った。
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