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 自分の気持ちを自覚してしまったら、日常生活の全ての調子が狂っていく。  朝、教室に入って一番に桐人を探してしまう。  探して、見つけて、目を逸らす。 「おはよう」の一言が、喉の奥に引っかかる。  いつものように肩を組んでくる邦貴が煩わしい。  触られても何とも思わないけど、触られてるのを桐人に見られるのが、なんか嫌だと思った。  終始どきどきと心臓が忙しなく鳴って、肺は酸欠を訴えてくる。  レンアイって大変だ。ココロもカラダも忙しすぎる。  バレたらどうしようと思うのに、姿が見たい。  頭が真っ白になるのに、話しがしたい。  頬が熱くなってくるのに、そばにいたい。  胸の中で理性と欲求がせめぎ合ってる。  仲間もいないダンジョンで、自分同士で戦ってどうする。  そう思うのにどうにもならない。  もやもやしながら購買に行って、焼きそばパンは売り切れで、代わりにツナサンドを買った。「あーあ」と思いながら教室に戻ると高橋が来てた。桐人の前の席のイスに座って、桐人と向かい合って弁当を広げていた。    びっしりとトゲのついたボールを飲まされたみたいに、身体が内側から痛い。    これは嫉妬だ。  高橋は桐人の友達だ。中学からの。友達にいちいち嫉妬してたら身がもたない。  そんな事、分かってる。  自分の席に戻ったら、邦貴がオレの前に座った。 「あれ?なんか…」 「どうしたんだ?知希」  ポケットが変な感じ。  そう思ってポケットに手を突っ込んでサイフを掴んだ。形状がおかしい。 「あー、これか。コインが突っ張ってる」  テキトーに入れたからなーと思いながら、コインの向きを変えていると邦貴がそれを覗いてきた。 「お!今日金持ちじゃん、知希。帰りどっか行く?」 「あー、違う違う。コレ、晩飯代。お母さん今日遅いから弁当でも買えって事で」  サイフをポケットに戻して、ツナサンドのフィルムを開けた。邦貴は「ふーん」と言いながらオレの前でデカい弁当箱を開けている。  邦貴と話しながらも、耳は斜め後ろの桐人の声を拾っている。  桐人は高橋の話に薄いリアクションで相槌を打っていた。 「でもさ、親の帰りが遅いって事は、知希も帰り遅くってもOKって事だろ?どっか行こうぜ、あんま金かかんねぇとこ」  熱心に誘ってくれるけど、あんまり行く気になんない。  弁当を食べ終えて、トイレに向かった邦貴の後ろ姿を見ながら、どうしようかなーと思っているとスマホが震えた。  あ。  桐人からだ。  ーー晩飯、うち来る?  どん、と大きく鼓動が跳ねた。  胸の中で打ち上げ花火が上がったみたいだ。    恐る恐る、桐人を振り返る。  桐人がちらりと視線を送ってきて、息が止まった。  ぐっと唇を噛む。  震える指でスマホを操作した。  ーー行きたい。いいの?  そう送って、もう一度桐人の方を見た。  桐人は机の下でスマホを操作しているようだった。  高橋は、気付いていないのか気にしていないのか、話を続けている。  ーーいいよ。  その返事を見た時、視界に邦貴が戻ってきたのが入った。慌ててスマホをポケットに入れて何もないふりをする。  桐人の家に、行く。  邦貴が話しかけてくる言葉が、ただの音にしか聞こえない。  ヤバい。邦貴に変に思われる。  必死で意識を切り替えようとする。大丈夫。心臓の音は外までは聞こえない。  それに何よりも、邦貴の誘いを断らないといけない。  桐人の家に行くのに、みんなと遊んでなんていられない。  なるべく早く抜け出す。  あ、でも、桐人はどうするつもりなんだろう。  5時限目の予鈴が鳴った。ざわざわと、みんな自分の席に戻っていく。  教室を出て行く高橋が、オレの方をちらっと見た。  うわ。  なんか、ちょっと怖かった。  なんでだろ。気のせい、かな。  高橋は割とキレイな顔をしてるから、無表情になると冷たく見える。  ポケットの中でスマホが震えた。  ーーまっすぐうちに来る?それとも一旦帰るか?  また、どどどっと胸が鳴った。感情が忙しなくて頭がぐるぐるしてる。  ーーそのまま行く。  少しでも長く、桐人といたい。  洗濯物、湿っちゃうかな。ま、いっか。  ーー分かった。  ガラッと前の出入口の戸が開いて、先生が入ってきた。  慌てて教科書の準備をする。  ああ、ヤバい。今日もこの後授業なんて頭に入らない。  テスト大丈夫かな、オレ。  いや、でも今、人生の一大事だから。  昔宿題を教えてくれたみたいに、教えてくれないかな、桐人。  でもそれこそ頭に入んないか。    ほら、こんな事考えてる間にまた板書が進んでる。  新しいルーズリーフを1枚ぺろんと出して、大急ぎで黒板の文字を書き写していく。  空調は効いているのに、手のひらにはじんわりと汗をかいていた。
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