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再婚話が散った後、母はしばらく元気がなかったけれど、ある休日「大掃除するわよ!」と言って、4人で食事をした時に使ったお揃いの皿とかコップを全部捨てて、飾ってあった遊園地でみんなで撮った写真を外したら、元の母に戻ったように見えた。
オレは彼と撮った写真を机の引き出しの奥に仕舞った。遊園地の半券と一緒に。母の手前、見える所には置いておけなかったけど、何となく捨てるのは嫌だった。
写真の中の2人は同じくらいの身長で、でも彼の方が大人っぽく見えた。
母には内緒だったけど、本当はしばらくの間彼とはオンラインゲームで一緒に遊んでた。でもそれも、興味の移り変わりやお互いの環境の変化でいつしか疎遠になった。そうしているうちにゲームのサービスが終了してしまって、本当に彼とは切れてしまった。
今どうしてるのかな、とか、時々考える。
彼、遠野桐人は、どんな高校生活を送っているんだろう。
*
「知希、今日は午前中で終わり?」
仕事に行く支度をしながら母が訊く。
「うん、そう。始業式と自己紹介とか?」
「じゃ、お昼はテキトーに食べといて。お母さんもう出るから。2年生初日から遅刻しないようにね。行ってきまーす」
バタバタと母が出て行くのを見送る。
オレは朝食の皿を洗って家を出た。
自転車のタイヤに空気を入れるのを忘れてて、急いで入れたけどギリギリになってしまった。
学校に着くと昇降口に新しいクラス分けの表が貼ってあった。
息を弾ませながら2ーAから順に見ていく。
森下知希。
あいうえお順だから下から見た方が早い。
Aには無い。Bも無い。
あった。C組だ。
予鈴が鳴った。ヤバい!!
大慌てで靴箱を探して靴を放り込み、階段を駆け昇った。
2ーCの教室に飛び込む。
「おっせーぞ、知希」
おはよーの合間にからかわれる。
「あ、邦貴いるー。おはよー」
小学校から同じ学校の黒田邦貴。
たぶん、一番仲のいい友達。
「間に合わねーかと思ったぁ。めっちゃ暑い」
シャツをばふばふさせながら教室を見渡すと、
「あ」
あのメガネくんだ。
そう思った時、先生が教室に入って来た。
「知希、お前そこの席だよ」
邦貴に教えられて席に着いた。
そうか、今年はあのメガネくんと同じクラスか。
なんか、いいな。
時々廊下ですれ違うだけのメガネくん。
話したら、どんなやつなんだろう。
購買で助けてくれたし、きっといいやつだ。
席に着いたのも束の間、すぐに始業式のために体育館に移動になって、校長先生の代わり映えしない話をあくびを噛み殺しながら聞いた。
体育館での並び方も出席番号順だから、背の高くないオレにはあんまり前は見えない。
オレの数人前にはあのメガネくん。
メガネくん、背高いなあ。邦貴と同じくらいかな。もちょっと高いか。
うらやましい。
そんな事を考えながら、始業式終わりで教室へ向かう行列の後ろからメガネくんの後ろ姿を眺めた。
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