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17
会計を済ませて、知希を家に連れて帰って来た。
知希は物珍しそうにきょろきょろしていた。
確か、昔うちに来た時もこんな感じだったなと思った。
「ほら、知希」
炭酸水を出すついでに、冷えたミネラルウォーターで濡らしたタオルを渡してやった。
「汗かいただろ?お前すごい勢いでチャリ漕いできたし」
今も前髪が額に張り付いてる。
「だって…」
言い淀んだその先は、何て続くんだろう。
2人でキッチンに立つのは何だか不思議な気分だった。
知希は料理はしないと言っていたけれど、頼んだ事はきちんと出来ていた。いわゆる「お手伝い」はちゃんとやってるんだろうな、と思った。
俺の手元を興味深げに見たり、ちょいちょい質問をしてくるのも微笑ましかった。
ハンバーグなんて、家で作って貰ってるだろうに。
レシピはたぶん、ごく普通。でも知希は熱心にボールを覗き込んでいた。
知希がハンバーグを捏ねている間に、コーンスープの材料を順番に鍋に入れていく。
交代しようと言って、手袋を外せなくて手間取っている一回り小さい手から
手袋を抜いてやった。
広げた手が可愛い、とか思った俺はかなりヤラれてる。
米が炊けてきて、熱いフライパンにハンバーグをジュワッと入れると、知希の腹が鳴った。
何だ、その可愛い反応は。
「もうちょっとだよ」
そう言うと、知希は恥ずかしそうに目元を赤らめていた。
こいつは俺の忍耐力を試してんのかと思うぐらい凶悪に愛らしい。
ああ、もう。
俺は飯じゃなくてこいつが喰いたいよ。
まあでも、そういう訳にもいかない訳で。
ふぅと息を吐きながら、上にのせる目玉焼きを焼き始める。
ハンバーグも、もう焼ける。
楽しかったな、2人で作るの。
最後にケチャップとソースを絡めたら出来上がりだ。
「うわー、美味そう!」
匂いにつられたように知希が寄ってきた。
「油が跳ねるぞ」
慣れてないと結構痛い。火傷なんかさせたくない。
知希は大人しくフライパンから離れた、と思ったら、俺の背中にくっつきそうな距離で覗き込んできた。
いや、めっちゃ可愛いんだけどさ。
もう何も言えない。
こいつは無意識に俺を殺しにきてる。
とりあえず、後ろからで顔を見られなくて本当によかった。
頬が緩んでるのを感じる。
そう思いながら皿を出して料理を盛り付けた。
「カフェだね。絶対300円じゃないでしょ、これ」
目をキラキラさせて言ってくるのが気恥ずかしかった。
照れ臭くて、とりあえず食事を始めようと促した。
「いただきます」と合わせた知希の手が、ぱちんと鳴って笑ってしまった。
何も言わず、気持ちいいほどぱくぱくと食べる知希を眺めて、まあまあ満足だった。
見てれば分かるのに、わざわざ「美味い?」と訊いた。
口をもぐもぐさせながら頷く様が可愛くて「良かった」と言うと、知希の頬がふわりと紅潮した。
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