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 そのうち飽きてしまうんだろうと思っていた夜のメッセージの交換。  でもその悲観的な予想に反して、知希は今も毎晩送ってくる。  祭りの日を境にして、俺からメッセージを送る事も増えていた。  大抵、他愛もない話か、授業で聞き逃したところの確認。  それをだらだらと寝るまで続ける。  最初はいつまで続けていいのか分からなくて戸惑った。  でも段々、ずっと続けてもいいんだなと思えてきて、俺も遠慮なくメッセージを送るようになった。                  *  翌日の弁当と朝食、そして今日の夕食。それらを考えながらスーパーの中を歩いていた。  先日は知希と来た店。俺の後ろを歩く知希を思い出す。  あーあ、何も思いつかねぇ。てか弁当面倒くせぇ。  夏は傷みも気になるから内容に気を遣う。  あ、そうだ。学食があるじゃん。  何で思い付かなかったんだろう。  知希は弁当を持って来ない。パンが多いけど、たまに1人で学食に行ってる。  ダメもとだ。誘ってみよう。  夕食と朝食の分だけの買い物をして家に帰った。  ダメなら購買でも1人で学食でも、どっちでもいい。  とにかく知希にメッセージを送ろう。  普段よりも早い時間だったけれど、構うものかとスマホを掴んだ。  ーー明日、学食行かない?  重くならないように気を付ける。  何十秒も経たないうちに返信がきた。  ーー行く  思わず見入った短い文面。  たった二文字で心が躍る。  ーーじゃ、行こう  そう送った指は、微かに震えていた。  その後「了解」という、猫が親指を立てたスタンプが送られてきた。  なんだよもう、可愛いなあ。  まあ、何してたって可愛いんだけど。  そんな事を思っていると、今度は高橋からメッセージが届いた。  ポップアップだけ見て、急がなくても良さそうだったから後回しにする事にした。  その後もポツリポツリと知希とメッセージのやり取りをしていて、途中でまた高橋からもきて、忘れていた事に気付いた。相変わらず大した事ない内容なのにと思ったけれど、知希とのやり取りも大差ないと気付いて可笑しくなった。    内容なんてどうでもいい。  重要なのは相手だ。  明日、知希と俺が一緒に学食に向かったら、きっと黒田は怒るだろう。  知った事じゃねぇけど。  相変わらず黒田は知希にベタベタと触るけれど、やっぱり最近は前よりも邪険にされているように見えた。  それを嗤うのは違うと解ってる。でも少しホッとしている自分がいるのも事実だ。  さっきから、もうスマホが鳴らない。  時計を見ると深夜と言われる時刻になっていた。  知希、もう寝たな。 「おやすみ」は送った事がない。それを送ると、もうその夜はおしまいになる気がするから。  だから毎晩、スマホが鳴らなくなるまで起きている。  元々睡眠が長くない方だから苦にはならない。  どんな顔して寝てんのかな、なんて考えた。  腕の中に抱いて眠れたら、どんなに幸せだろう。  まあ、そんな日は来ないだろうけど。  ヘッドフォンを頭から外した。  俺もそろそろ寝よう。  参考書をパタンと閉じて、スマホを手にベッドに向かった。  夢が自由に見られる薬とか、誰か開発してくんねぇかな。  そんなくだらない事を考えながら、眠りに落ちた。
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