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21
朝になって、もう一度前日のメッセージのやり取りを見返した。
ただ学食に行くだけなのに妙に緊張していた。
学校に着いて、内心そわそわしながら知希を待って、お互い何でもない顔をしていつものように挨拶をしたりして、でも知希も普段より更に落ち着きがないように見えた。
授業は聞いておかないと、後で知希に訊かれた時に困るので気を引き締めた。
それにしても時計が全然進まない。
やっと4時限目終了のチャイムが鳴った時、知希が俺を振り返った。
「行く?」と問うような表情に、頷いて応える。
「知希、今日は?」
黒田が知希の席の方に歩きながら訊いている。
「学食」
と応えた知希が立ち上がった。「ふーん」と言いながら黒田が俺の方も見た。
「あれ?遠野。今日弁当じゃねぇの?」
その黒田の問いかけに「ああ」と応えて教室の出入り口へ向かった。
そして知希の横に並ぶ。
「何、お前ら2人で学食?」
黒田の怒気を孕んだ声がして、知希が振り返りかけた。
あいつの声なんか聞くんじゃねぇよ。
そう思って、知希の肩に腕を回した。
ちらりと振り返って見た黒田は完全に怒っていた。
黒田みたいにすぐ外されるだろうと思っていたけれど、知希はそうはしなかった。
途中で高橋が知希を睨んだのが見えた。
結局、学食の食券販売機の前まで、ずっと肩を組んで歩いた。
知希の耳が桜色に染まっていて可愛かった。
何を言っても上の空な感じだったけれど、何を考えていたんだろう。
食堂で向かい合って座ると、先日の夕食を思い出した。
2人で食事ができたら、それだけで満足できると思っていた。
なのに目の前に知希がいると、どうしても欲が出る。
「唐揚げ、美味い?」
自分が知希の中で少しでも特別なんだと確かめたくなる。
「あ、うん。美味いよ」
顔を上げた知希に無茶を承知で言ってみた。
「一個、カツと交換しない?」
嫌って言うかな、さすがに。
「うん、する。オレここのカツ丼食べた事ない」
知希は素直に頷いた。
「あ、そうなんだ。ほら」
何でもないような顔で、知希の茶碗にカツをのせてやった。自分の箸で。
知希も俺の丼に唐揚げをのせた。
胸の中では心臓が忙しなくどくどくと鳴り続けていた。
「たまにはいいな、学食も」
予想以上に嬉しくて、照れ隠しに唐揚げを頬張った。
「美味いっしょ?」
と言って笑った知希が、いつもの何倍も可愛く見えた。
いっそ毎日学食でもいいな。
それが本音。
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