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 休み時間の話題は、ゲームの事や友達の事、授業中に先生が言ったちょっとおかしな言い間違い。SNSで見た下らない動画の話、などなど。  まあ、どうでもいい話だ。  そのどうでもいい話の中でも、できれば避けたい話題がある。  いわゆる、恋バナってやつ。  今の話はもちろんできないとして、前の話もしたくない。  周りに流されて付き合ってた彼女。もう顔もよく覚えていない。  転校で別れてからも、ちょいちょい連絡がきてた。  放課後や休みの日、あの時は別に隠す必要も感じてなかったから、友人がいてもメッセージを見て適当に返信をしてた。後回しにすると忘れるからだ。  もう別れてるんだから放っておいてもいいかとも思ったけれど、やっぱり無視するのは良くないのかなとか思っていた。  それにあの頃「彼女がいた」というのが一種のステータスだったというのは否めない。  高橋はその頃からの友人だから、当然彼女の事は知っている。  余計な事は言わないでほしい。特に知希の前で。  知希にとって、俺に昔彼女がいた事なんてどうでもいいだろうとは思うけれど「どんな子だった?」とか訊いてこられたら、さすがに笑えない。  そう思いながら、昼休みの友人たちの輪の中にいる。  皆、机や椅子に適当に座って、次々に変わる話題に乗ったり乗らなかったりしていた。  俺と知希は一つの机に背中合わせで座って、それぞれの友人と話をしていた。  わざと後ろ体重で座って、肩や背中が時々触れるのを感じている。  ふらふらと変わる話題の中、スマホの画面を見せ合ったりしているうちに座る位置が変わったりするものだけど、知希は不思議とそこから動かない。  高橋は時々知希の後ろ姿に視線を送りながら、俺に話しかけてきていた。  途切れ途切れに聞こえてくる黒田たちの話の流れが、嫌な方向に向かっている。  誰か止めろ、頼むから。 「この中に彼女いた事あるやつ、いんの?」  せめて向こう側だけで話していてくれたらと思っていたのに、黒田はここら辺の皆に向かってそう訊いた。 「遠野は中学の時いたんだよね、彼女」  高橋が口を開いた。  ふざけんなよ、お前。  心の中で盛大に舌打ちをして高橋を睨んだ。  高橋は一瞬怯んで、その後「本当の事でしょ」とでも言いたげな表情で見返してきた。 「マジで?いや、そんな意外でもないか、遠野なら」  皆が一斉に俺を見る。  嫌な圧。 「転校してきてしばらく連絡きてたよね。いつまできてたっけ、あれ」  ぺらぺら喋る高橋がマジでウザい。 「…覚えてねぇよ、もう」  こいつはどういうつもりでこの話に乗ったんだ?  知希はこれを、どう聞いてる?  背中合わせに座っているから、どんな様子なのかさっぱり分からない。 「え、どんな子だったんだよ遠野。転校って事は前の中学の子?」 「いいじゃん別に。そんなんどうでも」  どっちにしろ、聞かれたくない。 「よくねぇよ。貴重な経験談聞かせろよ」  うるせぇんだよ、黙れよてめぇ。  そう思ったけれど。怒鳴り散らすのもみっともない。  それに下手にかわそうとすると、余計に追いたくなるのが心理というものだと思う。  端的に事実だけ告げて早くこの話題を終わらせよう。 「…断れなかったんだよ、周りの圧で。それで…」  大して面白い話でもないだろうと思ったのに。 「あ、なに。向こうから来ましたパターンか!しかも周りにそう言われるって事はあれだな。あの美人を断るなんて許せねぇってやつだな」  黒田が囃し立てるようにそう言って、皆がにやにや笑っている。  さすがにムカついた。  勝手に喋った高橋にも、そして冷やかした黒田にも。  周りで笑ってる奴らにもムカついて教室を出た。  怒りに任せて廊下を歩きながら、知希はどうしただろうと思った。  あの話題の間、知希の声は全く聞こえてこなかった。  少なくとも面白がられてはいなかった、って事か?  だといいけど。  それとも全然興味がなかっただけ、という可能性もあるか。  屋根の無い渡り廊下に出た。風景が真っ白に飛ぶ。  直射日光が肌に突き刺さってきた。 「あっつ…」  少し前の夜が、遠い昔のように感じる。  知希がうちに来た日。  翌日からはまた、皆で放課後を過ごして、1人の家に帰っている。  それが当たり前なのに。  あの日が鮮やか過ぎて、日常がすっかり色褪せてしまった。  昼に一緒に学食に行っても、その時は満たされたと思うのに、帰る頃にはもう足りないと思っている。  欲深くて嫌になる。  腕時計を見ると、もうすぐ休み時間が終わる時刻になっていた。  あーあ、サボりてぇ。  でも知希の様子も気になる。  それに授業が始まれば誰も話しかけてこないしな。  せめて知希の後ろ姿でも見よう。  明る過ぎる渡り廊下から屋内に入ると、中は真っ暗に見えた。  俺の行く末みたいだな。  まあ、暗いのも順応して慣れるから。  そう思いながら俺は、薄暗い廊下を教室に向かって歩き出した。
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