24

1/1
前へ
/68ページ
次へ

       24

 あんな事があって、さすがに放課後を皆と一緒に過ごす気にもなれず鞄を担いで席を離れた。 「き、桐人。帰んの?」  後ろから知希に呼ばれて振り返る。  少し眉を下げた心配気な顔。  まあ、俺が昼から機嫌悪いのなんか分かってるか。 「ああ、うん。今日は…」  お前とは一緒にいたいけど。 「あ、そっか…。じゃあ」  そんな風に残念そうにされると、少しは心が浮上する。  視線を泳がせている知希の後ろに黒田が近付いてきた。  今こいつとは顔を合わせていたくない。  いくらなんでも、また同じ話を蒸し返したりはしないだろうけれど、顔を見ると苛々して精神衛生上よくない。  放課後1日分もったいない気もするけど。  控えめに見上げてくる知希をちらりと見て、こいつだけ連れて帰れたらいいのにと思った。  そんな事不可能なのは解ってる。 「じゃ」  不安気な大きな瞳から目を逸らして、大股で教室から出た。  ぐずぐずしていたら、教室に高橋が来る。  あいつにも会いたくない。  あの時、高橋さえ口を開かなければ、あの話の流れにはならなかったのに。  昼休みに集まっていたメンツの中で、俺に彼女がいた事を知ってたのは高橋だけだったから。  昇降口から出て、駐輪場に向かう。暑いからどうしても足が重い。  だらだら歩いていると、後ろから走ってくる足音が聞こえた。 「遠野!」  思わず眉根が寄った。 「待ってよ、遠野」  何でお前を待たなきゃなんないんだよ。  振り返るのも忌々しい。  そう思って迫ってくる高橋を無視した。 「ねぇ遠野ってば」  腕を掴まれて思わず振り払った。高橋の表情が引き攣る。 「何?」 「なに…って」  苛々しながら高橋を見下ろすと、上目遣いで見上げてきてムカついた。 「昼休みの事、まだ怒ってるの?」 「高橋、お前何であの話したんだよ」  幸い、周りに誰もいなかった。校舎の裏にある駐輪場。まだ皆が帰るには少し早いからだろう。 「あれは…、そういう流れだったじゃん」 「んな流れ、乗る必要ねぇだろ」  話の内容的に、あまり人に聞かれたくはない。だから離れていると話しにくいのだけれど、近くに来られるのも嫌だった。 「でも遠野、別に隠してなかったじゃん、彼女の事。てゆーか何?ああいう話、聞かれたくない人でもいるの?」  相変わらずの上目遣い。そりゃあ身長差があるからそうなるのは仕方がないんだけれども、どうにも腹が立つ。 「そんなんじゃねぇよ。話のネタにされんのが嫌だったんだよ」 「…そんな事言って、ホントは森下に聞かれたくなかったんでしょ」  高橋が俺を上目に睨みながら言った。  こいつどこまで気付いてんだよ。  俺そんな分かりやすかったか?  黒田とは同じ穴の狢だから、お互いすぐにそうだと気付いた。  じゃあ高橋はなんで…。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

376人が本棚に入れています
本棚に追加