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「答えないって事は、やっぱりそうなの?遠野」 「…そんなん答える義務ねぇだろ」  話し声と足音が近付いてくる。  駐輪場の真ん中で睨み合ってる訳にもいかない。  正直こいつの顔なんかこれ以上見ていたくないけれど、このまま放っておいてまた何かペラペラ喋られても堪らない。    駐輪場の奥、防災備蓄倉庫の脇辺りまで移動した。大きな銀杏の樹が天に向かって伸びていて、濃い影を地面に落としている。 「ていうかさ、高橋は俺がああいう話を知希に聞かれたくないんじゃないかと思いながら喋ったって事?」 「そんなつもりじゃ、なかったけど…」  じゃあどんなつもりだよ。  唇を歪めながらボソボソと言う高橋の様子にいちいち苛々する。 「それより遠野、何で森下の事名前で呼ぶの?他はみんな名字なのに。僕だってもう長い付き合いなのに高橋って呼ぶじゃん。なのにゲームのイベントで知り合った、たまにしか合わなかった森下を、どうして知希って呼ぶんだよ」 「それこそお前には関係ねぇだろ」  てゆーかお前が知希って言うな。 「…じゃあ、僕も桐人って呼んでいい?」  高橋が俺の方に一歩踏み込みながら言う。 「嫌だ」  それ以上近寄るな、と思いながら高橋を睨んだ。 「何でだよ。同じ友達じゃん。森下はよくて、どうして僕はダメなの?」  気の早い蝉が一匹、頭の上で鳴いている。風はそよとも吹かない。  銀杏の影に入っていても、足下のアスファルトから熱が上がってくる。  暑さの不快感と、質問の不愉快感。  いっそこいつを一発殴って縁を切りたい。 「…気付いてると思うけど、森下の事は黒田が狙ってるよ。あの2人すごく仲良いじゃん。黒田、いっつも森下とくっついてるし。それに、僕は遠野に彼女がいたの知ってるから、だから言わなかったのに」  また一歩、高橋が近付く。退()くのも負けたようで癪だから踏み留まった。  高橋が唇を噛んで俺をじっと見上げてくる。 「僕はずっと、遠野の事好きなんだよ」  あ、そう。  驚くより何より、高橋の言動が腑に落ちた。  高橋が知希を睨む理由。俺が知希を好きなのを、高橋が気付いていた理由。 「俺は、男は好きじゃねぇよ」  吐き捨てるように、そう言った。  目を見開いた高橋の、その目がぶわっと潤んでいく。  ああ、男もこんな風に泣くんだな。  告白、というのをされたのが、別に例の彼女1人という訳じゃない。  断れなかったのが彼女だけだった、というだけだ。  とりあえず試しに付き合ってみる、というのがどうにも面倒で、いつも断っていた。  その時の彼女たちも、こんな風に泣いたりしていた。  目を真っ赤にした高橋が、唇を噛んで俺を見上げて、そして何も言わずに踵を返した。  存外しっかりした足取りで、自分の自転車の元に向かい、振り返らずに帰って行った。
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