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26
高橋は、友人としては悪いやつではなかったと思う。
最近はかなりムカついてはいたけれど。
だから清々した、とまでは思わない。そんなスッキリしたもんじゃない。
まあ、殴って縁を切るのとあんま変わんねぇか。
どうしたって後味は悪い。
いつの間にか蝉は鳴き止んでいて、運動部の連中の声と吹奏楽部の楽器の音が空に響いていた。
さっき俺が高橋に言った台詞は、口調は違えどそのまま俺に返ってくる。
知希の声で。
重い足取りで倉庫の陰から出た。西日が強くて思わず顔を顰めた。
俺の自転車の4台向こうに知希の自転車が停まっている。
黒田の自転車もまだあった。
俺が帰っても、別にどうって事ないって事だよな。
いつも通り、皆で遊んで帰るのかな。
さっきは残念そうな顔してたけど、まあ、友達なんてそんなもんだろう。
なんか、すっげぇ疲れた。
晩飯どうすっかな。
こんな時でも食事の心配をしている自分が可笑しかった。
誰かが作ってくれるなら、こういう思考回路にはならないんだろうな。
とはいえ、別に強制されて料理をしている訳じゃないけれど。
そう思っているとポケットの中でスマホが震えた。
父から、部下を飲みに連れて行く事になったから夕食はいらない、とメッセージが入っていた。
今日は弁当にするか?でも冷蔵庫の食材が傷むしな。
わざと食事の事ばかりに意識を向けて、他の事を、知希の事を考えないようにしている。
必死で考えないようにしている、という事は、知希の事ばかり考えているという事だ。
帰りがけに見た知希は、何か言いたそうな表情をしていた。
昼休みの出来事を気に病んでいたのかもしれない。
あいつは何も悪くないのに。
お前は気にしなくていいよと、言ってやった方がいいのかもしれない。
でもその為に、自分からあの話題を出すのに抵抗感があった。
案外、今頃もう復活してるかもしれないしな。
そう自分で考えたくせに、じくじくと胸が痛んだ。
息が、上手く吸えてない。
自転車のペダルが、やたらと重い。
ちょっと気分転換に本屋にでも行こう。
自宅とは違う方向に曲がった。1年の頃はよくこうして放課後に本屋に行ったりした。そう考えると、2年になってからどれだけ知希と過ごしていたのか、改めて思い知った。
まあ、明日にはまた、元通りだ。
多少の気まずさは残っているかもしれないし、高橋はきっとうちのクラスには来ないだろうけど、それ以外は昨日までと同じような状態に戻れるだろう。
そもそも、俺があの話を知希に聞かれたくなかっただけだし。
だから大丈夫。そう自分に言い聞かせた。
涼しい本屋の店内をうろうろして、いくらか気も晴れて、また暑い中を自宅に向けて自転車を漕いだ。
陽が傾いて、空が夕焼けに染まっていた。
自宅マンションの敷地に入って、あれ、と思った。
エントランスの前に、見慣れた小柄な後ろ姿。
「知希?」
声をかけると、びくりと知希が振り返った。
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