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 頬に触れていた手が頭の後ろに伸びて、ぐいと抱き寄せられた。  オレは桐人の手を掴んでいた手をそろそろと動かして広い背中に回した。  抱きしめられた胸から、心臓の音が聞こえる。 「…お前ほんと、俺を殺しにくるよな」  笑いを孕んだ声が、ダイレクトに身体に響く。 「そんなつもり…、ないけど…」  息をするのも苦しい程、胸が高鳴っている。 「無意識なら、尚更厄介だな」  桐人の大きな手が、頬を包む。  そして上を向くように促された。 「…キス、したいって思ってた…?」  至近距離で問うてくる、桐人の唇。 「…思ってた…から、…して…?」  ねだると、笑みを形作った唇が近付いてきた。  …あ。  柔らかい…。  軽く触れた唇が、一度離れてもう一度重なる。  背中に回した手で、夢中でシャツを掴んだ。  唇をぺろりと舐められて、びくりと身体がすくんだ。  唇が離れて、閉じていた瞼を開くと桐人がオレを見下ろしていた。  すごい照れくさい。 「…は、初めてしちゃった…」  恥ずかしすぎて、つい口走った。 「俺だって初めてだよ」 「え、うそ。だって彼女、いたんだよね?」  桐人は彼女とキスくらいしてると思ってた。 「いたけどさ、言っただろ?断れなくて付き合ったって」  目元を染めたまま、唇を歪めて桐人が言う。 「今思えば、たぶん俺、あの子の事そんなに好きじゃなかったんだと思う。可愛いとは思ってたと思うけど」  そう言った桐人がオレを抱きしめる。  なんか曖昧な言い方だなと思った。 「もう、正直よく覚えてないんだよ。学校で知希を見つけて、もうそれでいっぱいいっぱいで、他の事は忘れちまった。だってお前めちゃくちゃかわ…」  そこまで言って、慌てたように桐人が口をつぐんだ。  桐人の心臓の音、すごい。 「…かわ…って、なに?」  なんとなく、想像はついているのに訊いてみた。  甘えたくて甘えたくて仕方ない。 「…お前、分かってて言ってるだろ」  目元を朱に染めた桐人がじろりと睨んでくるけれど、全然怖くなんかない。  えへへと笑いながらその目を見上げた。 「まあいいや」  そう言って笑った桐人に、また唇を塞がれた。  何度も角度を変えて、優しく唇を吸われる。  恐る恐る開いた唇に熱い舌が入り込んできた。  唾液を交換するような深いキスは、いつ息をしたらいいか分からない。  唇を離されて、ふうと息をついて桐人を見上げると、さっきまでとは違う顔をしていた。  大きな手がゆっくりとオレの頭を撫でる。 「痛かっただろ、手首。痕が付くってかなりの力だもんな」  怖かったな、と抱きしめられて、じわりと視界が潤んでしまった。 「…うん…」  なんであんなに怒ってたんだろう、邦貴…。 「ごめんな…」  耳元で、低い声で言われた。 「なんで桐人が謝るの…?」 「分かんなくていい。…でも、俺も悪いんだ」  そう言いながら見下ろしてくる桐人は辛そうな顔をしていて、だからオレはその両頬を手のひらで包んだ。 「分かんないけど、分かった」  桐人を引き寄せて口付けた。  桐人が分かんなくていいって言うなら、それでいい。  痛かったねも、怖かったねも貰えたから、他はもうどうでもいい。  桐人の首に腕を回して、舌を差し出して深いキスをせがんだ。  上顎を舐められてくぐもった声が漏れる。 「好きだよ、知希」  唇を合わせたまま、桐人が囁いた。 「オレも、桐人大好き」  照れくさくて、えへへと笑いながらそう告げた。  桐人がやっと笑ってくれてホッとして、また夢中で唇を重ねた。  
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