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 朝靄に煙るこの場所で、今日も私はバスを待つ。  まだ肌寒い四月の朝、日差しは徐々に暖かさを増してきているように思う。  このバス停を利用するようになってから約二週間。新しい環境にも慣れつつあった。  いつも同じ時間にここへ来る君。必ず私の後ろに並んでいる。  背が高くて、キレイな顔立ち、いわゆるイケメンと呼ばれる類いの君は、とても爽やかで素敵だ。  見た目だけで判断する訳ではないが、君を知ったあの日に、私は心を奪われた。  これが俗に言う“一目惚れ”か。  もちろん話したことなんてない。名前も知らない君。  ただ毎日同じバス停で顔を合わせるだけで、何一つ接点らしいものは無かった。  きっとこれから先も、無いかもしれない。  それでもいい。  私の心の中だけでこの気持ちを温めておく、それだけでいい。  そう思っていた。  爽やかな風が吹き抜ける五月。初夏の陽気を感じるようになった頃、またいつものようにバス停へ向かった。  一足先に到着する私、その後にやって来る君。今日もお決まりの並びだ。  バスを待つ間に、雨がちらついた。  ヤバい…。まさか雨が降るなんて…。  傘を持って来なかった私は焦り出した。  しかし、私の気持ちとは裏腹に、雨はしだいに強まってきた。このままでは、学校に着く前にびしょ濡れ決定。せっかくセットしたヘアスタイルも台無しに…。  思いっきり落胆していたが、気が付くと私は雨に当たっていなかった。  これはどういう状況だ…?  一体何が起きているのか…?  空を見上げた。  私の目に映ったものは─────────  藍色の傘だった。  振り返ると、  藍色のその傘は、    君がさしていた傘だった。 「あ……、あの……、」 「濡れますよ?どうぞ。」  この時、初めて君の声を聞いた。 「でも…、あなただって濡れますよ?だから、いいんです!私なんて…。」  すると君は、  私の腕を引き、  私たちの体は寄り添った。 「これで二人とも濡れずに済みますね。」  突然の相合い傘に、ドキドキが止まらなかった。耳まで真っ赤になる私…。気付かれるのが恥ずかしくて、バスが来るまでずっと下を向いていた。  バスに乗り、私たちは隣同士で立っていた。私はとても照れくさくて、君に何も言えなかった。  いつも先にバスを降りる君。もちろん今日だってそうだ。降りる前にもう一度お礼を言わなくちゃ…。  もうすぐ東高校前のバス停に到着する。  勇気を振り絞って─────────── 「あの!」 「あの!」  同じタイミングで私たちは互いに声をかけたのだった。 「あの…、お先にどうぞ…。」  私は君に順番を譲った。  すると君は、      藍色の傘を私に差し出した。 「これ、使って。」 「えっ?だって、まだ雨…。でも…。」  君は私の手を取って傘を渡した。 「これでまた明日話せるじゃん。」  
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