オタクの壁

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アイドルは中学生の頃から長年追い続けていることもあり狂乱の熱は少し下がっていた。それを知ってか知らずか、その再会はどこからともなく飛んできた蝶のように、ふわりと何気なく訪れた。 職場での裏表の激しい人間関係に疲れてしまっていた深夜、たまたま見たアニメに癒しを感じたのだ。アイドルを追い始めてからは趣味のためのお金はすべてそちらに消え、二次元からは完全に離れていた。 何だろう…この安心感は。それぞれ独自の時間と世界で動き回るキャラクターたち。涙を誘う熱い展開。現実では有り得ない現象の数々。クオリティーやストーリーは当然進化していて、出戻るのにさほど時間はかからなかった。 中学生のとき以来、足を踏み入れていなかったアニメグッズ専門店にも返り咲くこととなる。今は直営のカフェまであるというから驚きだ。 好みのアニメを見つけ推しが決まり、勇気を出して飛び込んだ店内は、中学時代と変わらずアニメグッズでひしめき合っている。 その中で、奴は不敵な笑みを浮かべ私を呼んだ。 「ほら。来いよ。これが欲しいんだろ?選ばせてやるよ。どれにする?さあ…一緒に楽しもうぜ」 自信たっぷりにふてぶてしい態度で鎮座する奴の本心は全く分からない。出戻りと言いつつ、ほぼ初陣に近い私は驚愕した。 「何これ。袋のデザイン全部同じじゃん…私が欲しいのはAくんなんだけど…『このうちのどれか一つ』…?は!?買うまで分からないの!?」 私の鼓動はだんだんと早くなっていく。一つだけ手に取り会計を済ませ、外に出てすぐに中を確認するも、Aくんではない。 途端に酷い後悔に襲われた。もしかしたら一つ後ろ…?いや、一つ前がAくんだったかもしれない。もう一つ買えば良かった。意を決して店内に戻る私に気づいた奴は嘲笑した。 「はは!また来ると思ってたよ。俺を舐めるな。簡単に渡すわけねえだろ…さあ。どうする?やるのか。やらないのか?」 その挑発的な態度にまんまと乗せられた私は結果的に売り場に残っているすべてを買い取ることになったのだけれど、そこにAくんはいなかった。 「え!?ないのAくんだけじゃん!!こんなことって…」 「俺は『持ってる』なんて一言も言ってないぞ」 私が大きく肩を落としても奴は、どこまでも強気だ。オタクを緊張させ悩ませる存在。彼の名は……そう。『ランダム』という。
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