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第1話 街角アンケート
「あっ、そこのお2人。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
マイクを持ったスーツ姿の男性と、中型のカメラを持った男性が、街を歩いていた大学生位の男女に声をかけた。
男女の2人は顔を見合わせてから立ち止まる。
声をかけてきた男性が、マイクを持っており、後ろの男性がカメラを持っているのでテレビか何かだと思ったのかもしれない。
「実はですね、私たちこういうものでして」
マイクを持った男性が、大学生の2人に名刺を渡す。そこには『アルファバイタリティの斎藤ひろし』と書かれていた。
「高伸、この会社知ってる?」
「いや、知らないけど。何の会社なんですか?」
大学生の2人――川田高伸と熊田千晶は首をかしげてから斎藤を見た。
「うちはアンケート調査会社なんですよ。お2人にちょっとアンケートにご協力をしてほしいと思い、声をかけさせていただきました」
斎藤はそこで言葉を切ってから、高伸と千晶を交互に観る。
「ところで、お2人は恋人同士でしょうか?」
「えっ! 違いますよ! ねぇ」
千晶は驚いた顔ですぐに否定をしてから高伸を見る。
「そーですよ。俺らは友だちです。それに俺ら、お互いに恋人がいるし」
「そーですそーです! 私には真面目な彼がいるし、こいつには美人の彼女がいるし。ただ、お互いの恋人が急遽来れなくなっちゃって、どうしようかなと思って街をブラついていたら、たまたまこいつとバッタリそこで会って、話してただけです」
千晶は慌てながらも斎藤に説明をする。
「そーそー、俺ら振られ組なんですよ」
「私は振られてないって! あんたはいつも適当だから、本当に彼女に捨てられた可能性は否定できないけどねー」
「ひでー奴。本人を目の前にして適当とか言う?」
「適当じゃなきゃ、ちゃらんぽらん? それとも軽い男?」
「うわっ、俺の評価だだ下がりじゃん!」
2人が言い合いをしていると、斎藤は楽しそうに微笑んだ。
「いいですねーいいですねー。実は、今回のアンケート対象者が恋人同士ではなくて、男女の友だち同士なんですよ」
「そうなんですか?」
「友だち……というか、知り合いというか」
「いや、そこは友だちで納得しとけよ千晶」
「いや~仲良しですね」
「仲良くなんてないですよ。高伸とは大学1年の頃からの顔見知り程度なんで。ただ、サークルが一緒で、たまたま一緒にいる時間が長いってだけです」
「お前、本当にひでーよな。もう3年の付き合いになんのに。遠慮がないっていうか」
「アンタに遠慮していたって仕方ないでしょ」
また2人で話が続きそうになったのに気づいた高伸と千晶は咳ばらいをしてから、温かく見守っていた斎藤を見る。
「えーっと、それで、男女の友だち同士が対象のアンケートって何ですか?」
高伸が聞くと、斎藤はニッコリと微笑んだ。
「男女の友情は本当にあるのか?っていうアンケートです」
「男女の友情?」
斎藤の言葉に、高伸と千晶は顔を見合わせる。そして、千晶は斎藤を見て首を傾げた。
「あの。私たち友だちじゃないんで、友情はないですよ?」
「ひどい! 千晶、それは普通に傷つくからやめて……」
「……本当に面白い2人ですね。でも大丈夫ですよ。私から見れば、ちゃんとお2人が友達に見えますんで」
「斎藤さん……! あなたっていい人ですね!」
「高伸と友だちに見えるなんて……ショックだわ」
「千晶!」
「あはは、うそうそ。で、斎藤さん、どんなアンケートなんですか?」
斎藤は、後ろにいるカメラマンをちらりと見てから頷くと、再び高伸たちに笑顔を向ける。
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