第7話 バレた

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第7話 バレた

と、その時、部屋のドア付近で何かが落ちる音がする。 高伸と千晶は騎乗位のままドアの方を見ると、そこには斎藤とカメラマン、そして高伸の彼女の上島舞子、千晶の彼氏の岸田博信がいた。 斎藤とカメラマンはニヤニヤとした表情、上島は口元に手を当ててショックを受けた表情、岸田はいつもは温厚なのだが目が吊り上がっていた。 「お前ら2人で何やってんだよ!」 沈黙を破ったのは、顔を真っ赤にさせた岸田だ。 岸田はズカズカと部屋の中に入ってくる。 千晶は慌てて高伸の上からのくが、顔が真っ青になっており言葉が出ないようだ。 高伸はとりあえず近くにあった服を千晶に渡し、身体を隠させ、素早くパンツだけはいて、岸田の前に出た。 実は、岸田は千晶と高伸のサークル仲間のため、3人の面識は初めからあった。 ただ上島だけは、高伸が合コンで出会った女性のため、千晶と岸田は面識がない。 「待ってくれ、岸田。これは……!」 「何を待つって言うんだ。千晶、俺という恋人がいながら、何やってたんだよ!」 「!!」 岸田は普段は生真面目で温厚なタイプ。 こんな風に怒るすがたを初めてみた千晶は、怖くて泣き出した。 「泣けばいいと思ってんのか!? 泣きたいのはこっちだよ。大好きな彼女が、同じサークルの男の上で腰を振ってるところを見たんだからな!」 「いや、あれは……違うんだってホント。全部俺が悪いの。お酒もあったし、誰もいなくなって、理性が効かなくなって、俺がこいつにエッチしようって持ちかけたんだから」 「はぁ!? じゃあ、お前が俺の彼女を寝取ったって言うのか!?」 「そうだよ。だから悪いのは全部俺なの。こいつをこれ以上責めないでやって」 「高伸……」 意外と男らしいところを見せる高伸に、千晶は心が揺れる。 だが、自分がしでかしてしまった過ちを思うと、やはり何も言えなくなってしまう。 「こんの、くそ野郎が!」 バキッ 岸田は高伸の頬をグーで殴る。 高伸は殴られて、そのまま後ろに倒れそうになったが、千晶が高伸を支えた。 「お前らの顔は二度と見たくない。千晶、お前とも今後一切連絡を取らないからな。このあばずれ女が!」 岸田は毒づくと、フンっと言って部屋を出て行った。 そして一緒にいたはずの上島もいつの間にかいなくなっており、後には斎藤とカメラマンだけが残った状態になった。 「えーっと、私たちも少し席を外しますね。救急箱はとりあえずキッチンのテーブルの上に置いておきましたから。部屋はそのままで大丈夫ですので、落ち着いたらお帰り下さい。では」 斎藤はそう言うと、カメラマンを連れてそそくさと部屋を出て行った。 再び部屋には、高伸と千晶だけになる。 「……いててて」 「高伸! 大丈夫!?」 高伸が殴られた頬に手を当てながら声を上げると、千晶はようやくしゃべれるようになった。 「あー……何か、口の中を切ったっぽい」 「えぇっ、大丈夫? ちょっと見せて」 千晶は高伸の口の中を見る。確かに血らしきものが見えた。 「本当だ! どうしよう!? 口の中だけど、消毒とかした方がいいのかな!?」 千晶は急いでキッチンの方に行き、斎藤が言っていた救急箱を見つけると、すぐに高伸の前に戻ってくる。 「口開けて? 消毒液をかけるから」 「待て待て待て。おちつけ、千晶。口の中に消毒液をかけるのは、さすがにまずいだろ」 「え、そう?」 千晶はまだ冷静さを取り戻していないようだ。 「はぁ……本当に落ち着け。とりあえず、頬を冷やすものが欲しいかな。あいつ、結構本気で殴ったから、青あざになりそうだし」 「……ごめん。私の彼氏が……いや、元カレが」 千晶はシュンとした表情をする。 「いや、あいつの前でも言ったけど、悪ふざけを始めたのは俺なのは本当だし、あいつが怒るのもわかるし」 「うん……私も彼が真面目な人だって思っていたから彼女になったのに、私が不真面目なことをしちゃったら、そりゃ怒るよね」 「まぁ……そこは、ちょっと何も言えねぇけど。俺も彼女に見られちゃったからな」 「え? あ、さっき一緒にいた女の子が、高伸の彼女だったの?」 「そ。お嬢様大学のお嬢様。俺みたいな一見軽い男がタイプなんだってさ。まぁ、でも、他の女性とエッチしているところを見たら、さすがに軽い男がタイプとは言わなくなるだろうけど」 高伸と千晶は同時にため息をついてから、視線を合わせて笑いあう。 「あーあ、本当に私たち、なんであんなことしちゃったんだろ」 「勢いとか空気とかって怖いよな。でも、俺たち意外と体の相性も良かったと思わねぇ?」 「はぁ?」 「だからさ、振られた者同士、このまま付き合っちゃうってのありかなーって。実際、突き合った仲だし?」 「ばか」 パシッ 千晶は、高伸の腕を軽くはたくと、伸びをして立ち上がった。 「あー! なんだか、色んなことがバカらしくなっちゃった。さっさと着替えて、ラーメンでも食べに行こうよ。お腹空いちゃった」 「ふっ、そーだな、そーすっか」 高伸と千晶は素早く着替えて、部屋を出て行ったのだった。 その後、この事は誰がしゃべったのか、サークル内でも噂が広まり、高伸と千晶はサークルにいづらくなってしまった。
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