第12話

1/1
914人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

第12話

隆人が場を仕切ってくれたおかげで、表面上は当たり障りなく話が進む。音量調節ができない杉木に眉をひそめる気配を感じながら、癖があるという前置きを反芻する。 「なんだあいつは!? 癖がある通り越してただの馬鹿じゃねえか! 川上のやつ、これを予見してやがったな」 「ほんと、凄かったですね……」 体調不良で欠席した川上とは大学時代の同期らしい。渉も何度か面識があり、すらりとした彼女は気性が隆人と似ているため、代理に杉木を立てたのはきっとやむにやまれぬ事情があったはずだ。 「できればもう会いたくない、です」 「まあそうなるよな……っと、悪い。連絡大丈夫か?」 「あ、はい。実は仕事と関係ないんです、すみません」 構わないと促されてスマホの画面をフリックする。打ち合わせが済んだら連絡がほしいという瑛斗からのメッセージ通知で、ちょうど終わったと返信を打った。 渉が文字を入力している間、ちらりと画面が見えたらしく、気を取り直した隆人が明るく話題を変える。 「友達か? 来たときに楽しそうだったのはそのせいか」 「楽しそうって、そんな露骨にしてませんよ」 「うれしそうだったか?」 「あんまり変わりませんよね」 気づかれていたことが恥ずかしい。そんなに態度に出ていただろうか。 しかし否定はせずにいると、上司が最後に話をまとめた。 「提出データは来週の月曜までに俺に寄こしてくれ。最終チェックして通ったら納品だ」 「わかりました。なにかあったらすぐに連絡ください」 これでようやく次の仕事ができる。隆人と一緒にデスクへ戻り、書類バッグを片手に提げて、待ち合わせ場所の駅に向かうことにした。 オフィスビルから外に出る。電車に乗ったという瑛斗からのメッセージに了解と返した。ここから駅までのんびり歩けば、大体同じくらいの時間に着くだろう。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!