第14話

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第14話

瑛斗と一緒に住むにあたり、最初にいくつか取り決めをした。食費と生活費を渉が持つ代わりに、料理全般の家事を瑛斗が担当すること。日用品以外のほしいものは自分で買う。その他は要相談だ。 「合鍵は注文してきたし、あとなにか必要なものある? 明日から仕事始めるから、話しかけられてもあんまり反応できないかも」 「うん、わかった。静かにしてるね」 食事を済ませてから鍵屋に行って、仕上がりを待つ間に街をぶらついた。洋服店をはしごして雑貨屋をひやかしつつ、何組か着替えを購入する。そうしているうちに時間になり、受け取った鍵にはお揃いのキーホルダーをつけた。 渉はどことなく緊張しているようで、目が合いそうになるとぎこちなく逸らされてしまう。それなのに瑛斗の傍を離れずに歩いてくれるから、彼なりの照れ隠しなのだと気づいて頬がゆるんだ。繊細できれいな顔立ちをしているけれど、こういった雰囲気にはあまり慣れていないらしい。 (かわいいな) 街中なのに抱き寄せてキスをしたくなって、さすがにまずいかと自重する。 渉に肩を揺すられてからシャワーを浴びるまで、実はずっと寝惚けている状態で、体を流しているうちにやっと目が覚めた。見知らぬ相手に助けてもらったことが気まずく、ダメもとで着替えを貸してもらえないか尋ねようとリビングに顔を出すまでは、まさかこんな展開になると思いもしなかった。 初対面の相手を介抱してくれるほどやさしくて、瑛斗の頼みを断れないくらい押しに弱い。表情が豊かだから見ていて飽きないし、いささか警戒心が足りていないところもあるけれど、これからは瑛斗が目を光らせればいい。 それから電車で移動して、帰り道にあるスーパーでカゴを持つ。数日分の食材を選び、日用品を選んでいた渉の耳元に顔を寄せると、いたずらっぽくささやいた。 「俺とのデート、どうだった?」 「でっ、デート!?」 「そうだよ。気づいてなかったの?」 予想外の響きに目を丸くし、驚いたように聞き返す。耳からじわじわと赤くなって、今日一番のリアクションに気をよくしながら腕のなかに閉じ込めた。 同じ通路にいた買い物客の視線に渉が慌てて押し退けようとするけれど、そんないじらしい抵抗が瑛斗を煽っているなんて考えもしないのだろう。 「仕事が終わるまでいい子にしてるから、家に帰ったら俺のこと構ってよ」 「……動けないから帰れない」 「そうだね。じゃあお会計しよう」 服屋の袋を片手に提げながら、軽い足取りでレジにカゴを持っていく。ざかざかと商品を袋に詰め終わると、二人で手分けして荷物を持った。
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