第17話

1/1

916人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

第17話

渉が担当する案件のほとんどは、主に依頼先の要望に合わせたプログラム調整だ。詳しい説明を省いて瑛斗には在宅仕事だと伝えているけれど、体調に問題がない期間であれば、今回の打ち合わせのように通常通り出社して仕事をすることもある。 そのなかでも比較的納期が短い依頼をまわされることが多いため、細かい作業でかなりの集中力が必要になるが、黙々と作業することが苦にならない性格には向いていた。 「んんーっ、はあ……とりあえずここで区切ろう」 真夜中を過ぎた空は白み始めている。物音ひとつしない早朝に大きく伸びをして、ぐるりと首を回しながら一度画面の前で立ち上がった。 暮らしている部屋はそう広くないものの、リビングと寝室が分かれていて、小さめの収納部屋を書斎として使っている。ここに予備の布団を持ち込み、仕事に取りかかると同時にほぼ引き籠っていた。ベッドで眠らないことを心配していた瑛斗も、仕事中にこの部屋に顔を出すことはなく、集中が途切れることなく作業ができている。 デジタル時計の日付を見ると、金曜日になっていた。すっかり時間の感覚が曖昧になっている。 「……そうだ、そろそろ休暇申請出さないと」 納品前に隆人がチェックしてくれるため、期日までおよそ一週間。このペースなら順調に仕上げられそうだ。 鈍い足取りで書斎から出ると、リビングのテーブルに食事の作り置きが用意されていた。瑛斗の手書きでメモが貼ってある。 (瑛斗は毎日なにしてるんだろう? 今は寝てるよね) 静かにしていると約束した通り、最低限の生活音しか耳に届かない。たまに玄関を出る気配がするけれど、郵便受けを確認したりスーパーで買い物をしてくるくらいで、いつも一時間足らずで戻ってきた。洗濯物は畳んであるし、部屋もきちんと整頓されている。 寝室で眠っている瑛斗を起こさないように気をつけて、いただきますと手を合わせた。食事を取ったらラストスパートをかけて、できるだけ早く終わらせよう。それから少し仮眠して、夕方までに進捗状況を報告すればいい。 食べ終わった食器を水に浸すと、渉も書置きを残してからコーヒーを淹れて戻る。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

916人が本棚に入れています
本棚に追加