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第18話
『ごはんありがとう。おいしかったです。明日の午前中には終わります』
片されたテーブルの上に渉からのメモがあった。きれいな字に似合わないひらがなの羅列に子供みたいだとくすりと笑って、簡単な朝食のあと家事に取りかかる。
渉が仕事を始めてからというもの、聞いていた以上に書斎から出てこなくなった。食事ができるたびに呼びに行くのも邪魔になりそうで、なるべく規則正しい生活を心がけながら、家事全般をこなす毎日を送っていた。
翌日も同じように朝を過ごして、昼に温かい食事が取れるようにカレーの下拵えをする。食材を煮込んでいるうちに書斎のドアが開く音がして、眠そうな顔をした渉が姿を見せた。
「おはよう……なんか、おいしそうな味がする」
「ふふ、まだ食べてないでしょ。もうちょっとでできるよ」
「そっか」
気が抜けた言い間違いに頬を緩めて、挨拶代わりのハグをしながらぽんぽんと背中を叩く。ぼんやりとしている様子もかわいいけれど、このままではすぐに寝てしまいそうだ。
「着替え出しとくからお風呂入りなよ。お湯も溜めてあるから」
「んん」
まぶたを擦ってそうするという渉を脱衣所まで誘導する。危ないから寝ないようにと注意して、これではいつかの逆だと思った。まだそう長く暮らしているわけでもないのに、ずっと一緒にいると錯覚してしまいそうだ。
具材が煮えた鍋にルーを溶かしてかき混ぜる。カット野菜を皿にあけて、白米をよそう器を探していると、さっぱりとした格好でリビングに戻ってきた。
「お風呂と着替えありがとう」
「うん。もう食べられるよ」
濡れた髪にバスタオルを被せてわしわしと拭いてやる。水気が取れてボサボサになった頭を手ぐしで整えて、サラダを先に持って行くように頼んだ。
「たくさんあるからね」
「いただきます」
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