第19話

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第19話

テーブルで向かい合ってスプーンを握る。外からの光の下で見る渉の目元には薄っすらと隈ができていて、袖から覗く手首はさらに細くなった気がした。 彼の仕事に関して、瑛斗はほとんどなにも知らない。正直あまり興味がなかったし、詳しく詮索するつもりもなかったからだ。しかし渉の人柄や生活スタイルが見えてくると、どうにも放って置けない気持ちになる。 頭を使うと空腹になると誰かが言っていたから、スマホで調べて食べやすそうなものを毎食テーブルに用意した。けれど手つかずになっているときもあり、文字通り寝食を忘れていたのだと感心する。 とりあえずはその仕事も一段落したらしい。先に報告を済ませて月曜日に出社すると聞き、わかったと頷いた。 「洗うよ。ずっと任せてごめんね」 「気にしなくていいから、ゆっくりしてて」 連日のお礼にと食器を洗おうとした渉を座らせる。片づけてから冷たいペットボトルとグラスを持ち、テーブルにそれぞれ置いた。ふとソファに視線を向けるとすでにうつらうつらと船を漕いでいて、お疲れさまと労いつつもそっと肩を揺する。 「渉? ちゃんと寝たほうがいいよ。寝室行こう」 「まだだいじょぶ……」 「だめだよ、もう寝てるじゃん」 声をかけた瑛斗の胸に、睡魔に負けた渉がずるずると寄りかかってきた。さらに落ち着く場所を探すようにくっついてきて、仕方がないと抱き上げる。寝室に運び、ベッドに横たえてタオルケットをかけてから、瑛斗も隣に寝転がった。 「おやすみ」 「……ん」 渉が寝つくまでここにいよう。翌日に外出の予定があるのなら、夕方には起こさなくてはいけない。 じんわりと伝わってくる高めの体温が心地よくて、同じシャンプーの匂いが眠気を誘う。夕食はどうしようかと考えているうちに、瑛斗も夢のなかへ落ちていった。
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