921人が本棚に入れています
本棚に追加
第22話
曜日に関係なくいつも混み合っている病院は、幸運なことにちょうど空いていた。問診を受けて処方された薬を受け取ると、帰りの電車内で無性に甘いものが食べたくなって、駅前のケーキ屋でいくつか購入する。
たいしたことをしていないのにも関わらず、これだけの疲労感を与えてくるのだから、あの杉木は悪い意味で侮れない。
「なにが好きか聞いとけばよかったなぁ」
「渉」
「ん?」
今日はよく声をかけられる日だ。自宅付近の路上でまた呼び止められ、先ほどの出来事から少しだけ警戒したものの、コンビニから歩いてきた瑛斗がひらりと手を振った。
「瑛斗! どうしたの?」
「ちょっと用事を済ませに」
顔を見ただけなのにほっとして、軽い足取りで駆け寄る。片手に提げたレジ袋のなかにプリンやヨーグルトが入っているのが見えて、渉が持つケーキの箱に気づいた瑛斗が残念と苦笑した。
「疲れてたから甘いものと思ったんだけど、被っちゃったね」
「そんなことないよ、うれしい。一緒に食べよう」
張り詰めていた肩の力が抜けていく。ついでにパソコンを預かってくれるやさしさにもじんときた。一度部屋に戻って互いの手土産を冷蔵庫に入れ、気分転換に近くの公園まで散歩に行くことにする。
雨の日の瑛斗との出会いから、まだ二週間も経っていない。その短さに驚くけれど、日が経つにつれて陽射しが格段に強さを増していた。もうすぐ夏だ。
「渉は暑いの平気? 毎年夏バテしてそう」
「あはは、当たり。部屋と外の温度差でぐったりしてる」
「なんか目に浮かぶよ」
公園に続く街路樹の葉は青々しく、丁寧に植えられた花は光を跳ね返している。さあっと吹き抜けていく風が心地よくて、ただ漠然と誰とも寄り添わずに生きていくと思っていたことが、遠い記憶のようだ。
遊具がある広場を抜けて、敷地内のベンチに座る。さわやかな空気を仰ぎながら一息つくと、瑛斗がさりげなく尋ねてきた。
最初のコメントを投稿しよう!