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第23話
「この前もそうだったけど、会社に苦手なひとでもいるの? 出社すると元気ないよね」
「うーん……取引先の担当さんがね、ちょっと独特なんだ。さっきも偶然鉢合わせちゃって」
わざわざ詳しく話すようなことでもないし、聞いても楽しい内容ではない。ところどころ端折ってことの経緯を伝え、途中で上司が助けてくれたのだと説明する。
「その上司って、男?」
「そうだよ。学生の頃からずっとお世話になってる」
「……そっか」
渉の話に相槌を打ちながら、瑛斗が長い脚を組んだ。それからふつりと黙ってしまったため、そこで会話が途切れる。
平日の昼間にこうして肩を並べていても、公園で遊ぶ子供たちの保護者に不審がられる様子はない。それどころか遠巻きにこちらを窺っている気配がして、ちらちらと視線を向けてはなにやら盛り上がっている。
(……瑛斗が気になるのかな?)
個人差はあれど、Ωは潜在的にαを認識してしまう。それが種の防衛本能や生殖本能だのと、これまでに様々な仮説が立てられてきた。
しかし彼女たちが全員そうだとは限らないし、付随する感情はどうあれ、男女共に産む側になりやすいΩが優れた相手に惹かれる気持ちはわからなくもない。
隣の瑛斗をちらりと覗き見る。なにやら考えごとをしている彼は、周囲の反応など気にも留めていなかった。
ほどなくして脚を崩し、ぱっと目が合うとそのまま耳元に唇を寄せてくる。離れた場所からさらに賑やかな声が聞こえたが、ささやかれた言葉にびくりとした。
「病院で抑制剤もらってきたんだよね」
「う、うん」
「それ、俺にちょうだい」
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