第7話

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第7話

「歩けなかったら運んだのに」 「大丈夫だよ。ごはん、ありがとう」 買い置きの食料はほとんどなく、袋の中身だけで野菜スープとパスタが並んでいる。いただきますと手を合わせてフォークを握った。 深く考えずに部屋へ上げてしまったけれど、聞きたいことはたくさんある。大雨のなか座り込んでいたのは唇の端が切れていることと関係があるのかとか、体調はどうなのかとか。普段はなにをしていて、どういう生活を送っていたのだろう。 「もう昼過ぎだけど、今日仕事大丈夫だった? 日曜だから休みだと思って」 「休みだよ。明日は会社で打ち合わせがあるけど、在宅中心で仕事もらってるから」 「そうなんだ」 黙々と食べ進めているうちに、瑛斗のほうから尋ねてきた。特になにも思わず素直に答えると、食べ終わった彼がくすりと笑って食器を下げる。二人分のグラスに飲料水を注いで戻ってきた。 「俺が言うのも変だけどさ、怪しいやつを部屋に入れるなんてかなり不用心じゃない? 出て行けとか誰だとか、俺まだ言われてないよ」 「……道で倒れてたのはそっちじゃん。でも、これからはそうする」 拗ねたように口ごもりながら言うと、穏やかな表情の瑛斗と目が合う。 ついでに洗濯機を使ってもいいかと聞かれ、たしかに今の格好では外に出られないので、洗剤の場所を教えた。 二人で食器を洗ってしまうとすることがなくなり、所在なくテレビの前に座る。渉が会話に困った様子を察して、瑛斗が後ろからゆるく抱き寄せた。 「なっ、なに?」 「このままでいいから聞いて、遅くなったけど自己紹介するね。俺の名前は倉瀬瑛斗。両親はαとΩの男で、産んでくれた父さんに育てられて大学に通ってた」 背中越しに体温が伝わってくる。その説明で片親なのだとわかったけれど、どちらか一方がΩの場合、家庭環境が複雑なケースはめずらしくない。瑛斗が喋るたびに声が響く。
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