オティリアとマリアの文通録

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 ではまた、手紙を書きます。  もしまだ私を友と思ってくれるのなら、今度我が家に遊びに来てくださいね。お待ちしています。 あなたの友、マリア=ウォンチニスカ、改めマリア=ヴァレフスカ ***  読み終えたオティリアは、何とも言えない複雑な気分で手紙を机の上へ置いた。  この返信が届いたのは、オティリアが手紙を送ってから、実に数ヶ月を経たのちのことだった。  旅行などの移動には馬車を(もちい)いるしかないご時世、オティリアはマリアの返事をただ悶々と待つしかなかった。  まだはっきりと頼まれてもいない段階で、闇雲に駆け付けるのは不作法だと思うだけの分別はあった。そして、要らぬ分別を発揮する(あいだ)に、マリアは結局望まぬ結婚を強いられてしまった。  そう思うと、自分の無力もさりながら、マリアの考えていることも、率直に言って理解し(がた)い。  いくら、家が借金で首の回らない状況だとは言え――相手がいい人だと分かったとは言え、やはり年齢差が年齢差だ。自分がマリアの立場だったら、と思うと、とてもではないが無理である。  恐らく、オティリアなら、早々に修道院へ駆け込んでいるだろう。今度は、修道女になる為に、だ。  神に対しては罰当たりな考え方だろうが、祖父ほど年の離れた男と結婚させられるくらいなら、シスターになるほうが万倍マシだと思う。  ただ、結局はマリアの人生で、彼女が選択したことなのだから、今のオティリアにできるのは祝福することだけだろう。たとえ、理解が難しくとも、もうオティリアにできることはそれしかない。  けれど当面、素直にそうはできそうにない。  しばし、手紙を眺めたのち、そっとそれを封にしまう。  せめて、言葉通りマリアが、これからの人生を幸せに歩めるように願いながら――。 【了】
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