オティリアとマリアの文通録

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――親愛なるオティリア=グレツキ様  こんにちは。お久し振りです。お元気ですか?  実は、早速なのですが、縁談が持ち上がったので、そのご報告と……ちょっと愚痴を聞いて欲しくて、筆を執りました。  先日、アナスタシィ=コロンナ=ヴァレフスキ伯爵様という方とお会いしました。母から紹介され、一緒にとしきりに誘うので、その後、お茶を少しご一緒しました。  はっきりと言われたわけではなかったのですが、どうも伯爵と私との、お見合い的な意味もあったようです。つまり、結婚相手にってことで、これが縁談。  突っ込んで訊くと、その軽い茶会の前に、伯爵から打診があったんですって。  どこで見掛けたのか、私に一目惚れしたと仰って。  突然言われても困りますけど……確かに、伯爵は紳士的です。立ち居振る舞いにも品があります。  ですが、お年が……実は六十五歳なんです。私より五十近くも上で、しかも末のお孫様が私よりも六つ年上の二十三って! あり得ません。  しかも、申し込みの内容にも驚きました。  母曰く、 『もしも夫人が、マリア嬢を私の妻にくださるのなら、私はウォンチニスキ家の今ある借財をすべて綺麗にして差し上げましょう――』  と言われたそうなの。どう思います?  まるで身売りです!  それなのに、母と来たら、 『本当におめでたいわ! これで我が家の借金は万事解決ね。ありがとう。お前さえ決心してくれれば、こんなに嬉しいことはないわ』  ……って、これが仮にも産みの母の台詞でしょうか。  上の兄三人も大喜びで、最早私に逃げ場はありません。  進退窮まるってこのことね。  そんなに身売りがしたければ、母が嫁げば済むことなのに。だってウチはもう、父は亡くなっていて、母は言わば未亡人。再婚に、何の障害もありませんし、コロンナ=ヴァレフスキ伯爵様とは母のほうが年が近いのですから―― ***  グシャリ、という音がして、オティリアは我に返った。憤慨のあまり、手紙を持つ手につい、力が入り過ぎたらしい。
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