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 1学期の終業式を終え、晴れて楽しい夏休み迎えられる解放感を、体いっぱいに滲ませながら、私と紗都里は、まだ人が多く残る放課後の教室で、お互いの成績表を見せ合って笑い合っていた。  心配していたテストの結果も、成績表も、予想よりもいい出来で、この夏休みは受験勉強はそこそこで、楽しい夏が過ごせる予定だ。  「紗都里。夏休みの予定は、まだがら空きだろう?」  ゆず君がいつもの王子様スマイルを浮かべて、いつものメンバーと一緒にやって来た。  私はゆず君の後ろに見える黒い腕にドキッとして、紗都里の手にある自分の成績表を取り返し、急いでその場を離れようとした。  「あー、待って待って。青山にも話があるんだ」  席を立った私の腕をゆず君がしっかり掴んで、座らせる。  私は王子様スマイルで私達を見下ろすゆず君を真っ直ぐ見上げながらも、その後ろに立っている源来君に意識が向いてしまって、ドキドキと心臓の音が大きくなる。  「何?青山まで巻き込もうなんて、何を企んでおる?」  紗都里は睨むようにゆず君を見て、ちょっと身構える。  企み?  何?  巻き込まれるの?  何?  「そんな怖い顔しないで、気楽に聞いて。楽しいお誘いだから」  ゆず君が紗都里の隣に座ると、他の3人も近くの席や机に座った。  そうなると、私の視界には自然と、ゆず君の後ろの机に座って少し気だるげに足を投げ出している源来君の首から下の姿が入っ来て、少し視線を上げれば源来君と目が合ってしまうんじゃないかと思うと、視線がゆず君から益々離せなくなった。  「青山、そんな目で俺を見つめるな。俺も見つめ返すぞ。何でも、7秒見つめ合うと恋に落ちるらしいから、試しにやってみるか?」  「なっ、何言ってるの?7秒ぐらいでゆず君に恋するわけ無いでしょ」  源来君の真ん前で、変な事言わないで!  変な奴だって思われても良いけど、ゆず君の事が好きだって勘違いされるのは嫌だ。  嫌、変な奴だって思われるのも、やっぱりイヤだ。  動揺が急激に体温を上げたから、一気に顔が赤くなったのが分かった。私は、そんな顔を源来君に見られなくなくて、耳まで赤くして俯いた。  「明日からの高校最後の夏休みだ。そこで、合格祈願を兼ねて、明日行われる日吉神社である夏祭りに、一緒に行きたいなと思って、お誘いに上がりました」  ゆず君が王子様スマイルで、私と紗都里を交互に見て用件を言う。  へっ?  どういう事?  ゆず君と紗都里が二人で?  イヤイヤ、私もって言ってたから、ゆず君と紗都里と私?  ん?  変な組み合わせに、私は思わず顔を上げて首をひねると、すかさずウッチーが補足する。  「俺たち4人と、紗都里と青山の6人で行かないかって事」  あぁ、6人。  ん?6人?  えっ!6人ってことは、源来君も一緒って事?  いやいやいやいや。無理、絶対無理!  そんなの無理だよぉ~。この距離でさえ、恥ずかしくて顔が見れないのに、一緒に遊ぶとか。私の心臓が爆発して死んじゃうよぉ~。  私は紗都里のシャツの袖を力一杯掴んで、必死な目で訴えた。  無理です、絶対無理です。断って。  紗都里は、私の握り過ぎて白くなった手と、一生懸命に訴えている目を交互に見て、うんうん。と頷いた。  それを確認した私が、安心出来たのは束の間。  「OK。だったら、全員浴衣で集合しようではないか」  紗都里の言葉を聞いて思わず席から立ち上がった。  がたっ!  立ち上がった私に、皆の視線が集まる。  けれど、私は目を見開いて紗都里を凝視する。  「青山も浴衣賛成だと。じゃ、私らは準備があるからお先に失礼。明日、夏祭りで」  紗都里は凝視したまま固まっている私の腕をしっかり掴んで、引きずるように教室から連れ出した。  「何、何、何、何!どういう事なのよぉー。私、しっかりNO!の顔してたでしょぉ~」  本当は、腹の底から大声で叫びたいけど、廊下にいる沢山の生徒たちの手前、声を殺しつつ囁きながら叫ぶ。  紗都里は、そんな私の訴えを無視して、無言で私を引きずりながらズンズン進む。私は口をへの字に曲げながら、付いて行くけど、目の前にある白いシャツに隠れた背中が、恨めしくて仕方ない。  紗都里は人気の無い外階段まで私を連れて来ると、珍しく頭を下げながら謝った。  「ごめん、勝手に決めて。でも、行きたいんだ、夏祭り。あの4人と」  「えっ?あの4人と?」  ドキッとして、瞬時に嫌な予感が広がる。  もしかして紗都里は、源来君の事が…。  「実は私…」  重く鈍いドキドキが、体の中に広がっていく。  「夕弦の事が好きなんだ。だから、高校最後の思い出が欲しくて」  「えっ?ゆず君?」  予想していた名前とは別の名前が出たから、重く鈍いドキドキが驚きにかき消されていく。  「うん」  「えっ?いつから?全然気付かなかった」  「中学からずっと」  「えっ?そんな前から?」  「夕弦は私の事、友達としか思って無い。だから、告白するつもりは無いのけど、高校最後の夏に、一緒に過ごした特別な思い出が欲しくて」  あれ?  紗都里の俯いた横顔が、恋する乙女の横顔に見えるのは、同じく恋する乙女の私の目の錯覚か?  しかし、私は初めて知る紗都里の恋に、全身で共感する。  「そうそう。気持ちを伝えたいとか、付き合いたいとかじゃ無くて。ただ好きでいたいだけなんだけど、見てるだけじゃっ物足りないと言うか、もう少し近づきたいって思っちゃうんだよね。実際そんな事、恥ずかしくて出来ないんだけど」  「へぇー、よく分かるな。青山も好きな人がいるのか?」  核心をつく質問に、思わず、勢いが止まる。  「えっ、イヤ。ほら、恋ってそんなもんじゃない」  紗都里が打ち明けてくれたからって、私まで源来君への恋を打ち明ける事はできない。だって、密かに紗都里に焼きもちを焼いていることがバレたら、みっともなくて恥ずかしい。  「そっか。恋って、そんなもんか」  ため息交じりにリピートされて、自分だけ恋を秘密にしている罪悪感が心をざらかりと撫でた。  「分かった。行く。喜んで同行いたします。紗都里の特別な恋の思い出をつくれるように。あわよくば、ゆず君と良い感じになれるに協力する」  幸い、ウッチーも司君もいるから、源来君と二人になる事も無いだろう。  「ホント?」  「はい。明日、私は紗都里の引き立て役に徹します」  「イヤ。そんな事されたら、周りが怪しむ。だからいつも通り挙動不審の青山でいてくれ」  「はっ?私、挙動不審じゃ無いし。至って普通だし」  「自覚無のか…。まぁ、いい。兎に角、明日は浴衣で夏祭りだ!」  「だ!」  蝉が煩く鳴く外階段で、女子高生が二人して拳を突き上げる様は、とてもじゃ無いけど、恋する乙女の姿には見えないだろう。でも、これが私たちのやり方だ。
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