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 みんなでお参りしたら、ゆず君と司君が焼きそばの屋台に一直線で。ウッチーと源来君はフランクフルトが良いって行っちゃって。紗都里はりんご飴が可愛かったって私の手を引いた。  あれ?ゆず君と紗都里の夏の思い出は?  こんなにバラバラでいいもんなの?  疑問は所どころ浮かぶけど、源来君と距離が出来る安心感に口をつぐんで、大人しく紗都里の後に続く。  ウッチーと司君が焼きそばとフランクフルトを交換している所を見つけて、「りんご飴、可愛いね」っとウッチーに声をかけられて、「夕弦と源来は、あっちで金魚すくい対決するらしいよ」と教えて貰ったので、行かない訳には行かず、紗都里と共にいつもより小さな歩幅で、金魚すくいの屋台を探す。  「あれ、金魚すくいじゃ無くてスーパーボールすくいだよね?」  白と黒の浴衣の二人がしゃがみ込んで、水槽の中を真剣に睨んでいる姿を見付けて、紗都里に確認する。  「フムフム。現代の金魚は蛍光色をしているようだな」  紗都里は楽しそうに二人に近づくと、上から水槽を覗き込んで、「あのキラキラを狙え!」とか「下手くそ!」とか指示なのか、叱咤激励なのか分からない言葉をかける。  3人は昔からの友達らしく、声を掛け合う間や笑うタイミングがピッタリで、失敗して声を上げた源来君の肩を、思いっきり叩いた紗都里に、私はまた嫉妬してしまった。  自分から声を掛ける事も、触れる事も出来ないのに、嫉妬だけはどんどん増えていくなんて、何だか惨めで少し落ち込む。  「青山。見つかった?」  ウッチーが俯いている私に、ニコニコ顔で話しかけて来たから無理やり笑顔を作って指を指した。  「あそこ。今、紗都里が二人を応援してる」  「ホントだ。あの3人、ホント仲いいよな」  3人を見守るウッチーの横顔は、騒がしい生徒を見守る引率の先生みたいで、いつもより大人に見えた。  「何でゆず君、私達を誘ってくれたんだろ?ゆず君の周りには仲のいい女子は沢山いるのに」  どんな質問にも答えてくれそうなウッチーに、昨日からずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。  「あぁ、それは、俺が夕弦にお願いしたんだよ。  夏と言えば夏祭りだろ。『高校最後の夏に女子との思い出が無い俺を、可愛そうだとは思わないのか?このイケメン!』ってね。俺の嘆きを不憫に思った夕弦が二人を誘ってくれたんだ。モテる夕弦が、何の気兼ねも無く誘える女子は紗都里だけだからね。  それと、ここ一応、学問の神様だし、受験生の俺たちがお参りするにはうってつけだなと思って。まぁそれは建前だけど」  「何か、お願いなのか、八つ当たりなのか分からないけど、私も誘って貰えて良かった」  ウッチー、ありがとう。  心の中で、いつかみたいに手を合わせながらお礼を言う。  おかげで紗都里にキラキラな思い出が出来そうです。ついでに私も。  私もウッチーの真似をしてニコニコ顔で微笑み返す。  「何、二人で見つめ合ってるの?普段と違う姿にときめいちゃった?」  相変わらず大きな声で、的外れな事を口走る司君がレインボーカラーに蜜がかかったかき氷を手にして、私とウッチーに合流した。  「うわっ、凄い色。それ、何味なの?」  司君の言葉は、私もウッチーもスルーして、別の質問をする。  「凄いだろ。これはきっと夢の味がするんだよっ」  司君は楽しそうに説明すると、大きな手で細いスプーンストローを使って、可愛くかき氷を食べ始めた。  「勝った!勝った!このおきいスーパーボール取った俺の勝ちだよな!」  嬉しそうにはしゃぎながら、ゆず君が紗都里に判定を求めている。  紗都里の目の前に突き出している掌にはキラキラと光る500円玉くらいの大きさのスーパーボールが乗っている。  一方、源来君は悔しそうに口を結んで、腕を組んでいる所を見ると、どうやら一つも取れなかったらしい。  「勝者。夕弦!」  紗都里はゆず君腕を掴んで上に引き上げると、勝敗を告げた。  紗都里は好きな人にも、話しかけられるし、目もみれるし、腕も掴めるんだ。  私とは正反対の行動を平気でする紗都里に、尊敬の眼差しを向けながら小さく拍手をした。  「やったー!みんな見ろよ。俺の努力の結晶」  ゆず君は成果を報告するように、キラキラのスーパーボールを見せて回った。  「次は射的で勝負!司とウッチーの対決にするか」  紗都里も楽しそうにウッチーと司君の背中を押して、次の夜店へと進んで行く。  私もそれに遅れまいと歩き出そうとしたら、「青山」と呼び止められて振り返った。  しまった。  浮かれていて、間抜けな笑顔のまま、うっかり視線を上げてしまった。  私はバッチリ、源来君と目が合ってしまい、金縛りにあったように、笑顔のまま固まった。  「これ。浴衣の金魚とは全然似て無いけど」  私の硬直など気にせず、源来君はゆっくり近づくと、私の目の前で手を開いて見せた。  その大きな掌には、蛍光ピンクの小さな金魚が一匹乗っていて、私は狂った鹿威しのように、何度もその金魚と源来君の顔を交互に見た。  これって、これって。  私にくれるって事?  私の為に捕ってくれたって事?  私の為に…。  嬉しさと感動と、後、よく分からない感情が体中に広がって、お礼の言葉も出てこない。  「あっ、要らないなら司に…」  「要る。要る!ありがとう…」  反射的に源来君の掌に横たわるピンクの金魚を奪い取るように握り締めた。  ギュって。  もう力が入らない位、ピンクのネイルを塗った爪が掌に食い込んで痛い位、ギュっと。  「良かった」  大きな口をニカッと上げて笑う顔を、こんなに間近で見てしまって、私はクラクラと目まいを覚えながら、握りしめた手を震わせて、速足でみんなの後を追った。  ねぇ。どうして?  こんなに近くで、こんなにたくさん話して、笑って、プレゼントまでもらったのに。  どうして満足できなの?  見てるだけで良いって。  片思いだけで幸せだって。  恋してるだけで楽しかったのに。  特別な時間が、呼び水になって、もっともっと特別が欲しくなる。  目を見て話せないのに。  ふざけあってでも触れられないのに。  話しかけられても、笑顔で返せないのに。  もう、何をしていても、源来君の事しか考えられない。  もっと、もっと…。  近づきたいよ。
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