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 「っと、言う事で、肝試しをします」  海に行った時に作ったグループLINEに、司君からメッセージが入り、どういう経緯か分からないけど、肝試しをする事になった。  明るい提灯の下や、眩しい太陽の中で源来君に会うのはかなり緊張するけど、月明かりが届くくらいの暗闇なら、目が合っても分からないかもしれないと、自分だけに言い訳をして参加を決める。  本当は、源来君に会いたくて、少しでも話したくて、一緒に遊んだ思い出を増やしたいからなのに。自分自身にも素直になれず、少しずつ話せるようなった事を喜びながら、今日も鼓動を逸らせている。  紗都里の地元で人通りの少ない寂しい場所にある古い神社は、恋のドキドキとは違うドキドキを湧き上がらせる絶妙の雰囲気が漂っている。  なのに、きれいな月が隠れたかと思ったら、いきなり大雨って、どういう事?  6人は、駆け込んだ小さな祠の軒下で、身を寄せ合って、雨をしのいでいた。  「家、出た時は月が出てたぞ。何で今ふるかなぁ」  ゆず君が大きな雨音に負けないくらい大きな声で、話すというより、叫びながら絡みだした。  「源来が約束の1分前に来るからだ。絶対そうだ!」  「は?俺は晴れ男なんだよ」  「じゃぁ、紗都里だ。今日、珍しく白いワンピースなんて着て来るから」  「これは、衣装。肝試しと言えばお化けでしょ?お化けと言えば、白いワンピースの女と決まってるんだよ」  「おぉ~。確かに。その姿で木の陰とかにいられたら、腰抜かしておしっこ漏らすわ」  「でしょ」  「あー。じゃぁせめて怖い話でもするか。司、何かない?」  急に振られた司君は、ちょっと考ると、真面目な顔をして、みんなを見渡した。  「俺がこの間、怖いめにあった話なんだけど…。この前の練習試合の帰り、一人で電車に乗ってたら、スゲー可愛い女の子に一目惚れしてさ」  司君が声まで真面目に話をし出すと、みんなは息を飲んで、耳を傾けた。  「すぐに思いの丈を告白したら、その子…、実は…。日本語が分からない外国人で、スゲー怖い目で睨でまれた」  ガクっ。  リアクションしたのは数名だけど、全員心の中ではコケるリアクションをしたハズ。  「何だよ、それ!怖いめにあった話じゃなくて、怖い目にあった話だろ!」  みんな、ゆず君のツッコミに激しく同意して、首を縦に振る。  「でもさ、これから俺たち社会に出て行くわけじゃん。そうなると、言葉の通じない相手に気持ちを伝えたくなっちゃう時も出て来るだろ」  「『でも』の使い方が、会話の脈絡と合ってないぞ、司」  今度はウッチーが冷静にツッコむ。  だけどそんなの無視して、司君がウッチーに質問する。  「そんな訳で、夏目漱石が、『I love you.』を『月が綺麗ですね』って訳したみたいに『I love you.』を言葉じゃ無い方法で伝えるなら、どうやって伝える?」  司君のムチャぶりを、ウッチーはいつものニコニコ顔で応える。  「何だよその恋愛大喜利。  そうだな。俺なら、ただ、俺の気持ちに気付くまで見守る。かな」  「ウッチーこそ、何だよそれ。そんなんじゃ、一生伝わんないだろ」  司君がツッコミみたいな感想を言うと、MCのように回し始めた。  「青山は?」  「私?私も見守るかな?」  「ダメ。同じ回答は受け付けません」  「え~。そうだなぁ…。手」  「手?」  「手を繋ごうかな。ギュって。好きですって気持ちを込めて」  「おぉ~、いいねぇ。可愛くていい!」  「じゃ、夕弦」  「俺は、目を見る。俺の気持ちに気付いてくれるまで何度でも」  「夕弦なら、普通に目が合っただけで勘違いされそうだから、気を付けろよ」  「紗都里は?」  「んー。後と残ってるのは、抱きしめるくらいか?だったら、気持ちの分だけ、ギュッと抱きしめてやろう」  「うわっ、情熱的。源来は?」  「じゃぁ、俺は目を見つめながら手を握る」  「それズルい。青山と夕弦のくっつけただけだろ」  「そう言う司はどうなんだよ」  「俺は、歌う。俺の気持ちを歌で伝える!」  「うわぁー、それは止めとけ。司の歌じゃ嫌われるぞ」  「なーにー!俺の音痴をバカにするヤツは、こうしてやる!」   司君が源来君の腕を掴んだと思ったら、一緒に大雨の中へ駆け出した。  「うわー!ウッチー、俺たちも行かなきゃ~!」  ゆず君が嬉しそうに、司君の真似をしてウッチーの腕を掴んで二人の下に駆け出した。  雨の中を駆け回る男子高生。  青春以外の何物でもないわ。  夜なのに眩しくて、思わず目を細めてしまう。  隣で同じように目を細めている紗都里に、青春ついでに聞いてみた。  「ねぇ、紗都里。ゆず君に気持ち伝えなくていいの?このままじゃ友達で終わっちゃうよ」  「うん、もういい。可愛い浴衣姿も、ナイスバディの水着姿も、清楚な白いワンピースも、私がどんな特別な姿を見せたとて、夕弦にはだだの友達としか見られて無いと分かった。だったらこのまま、友達のままがいい」  紗都里の横顔は微笑んでいるように見えたけど、それはきっと、気持ちを閉じ込めたから。声は明るくても、悲しく聞こえた。  紗都里の視線の先には、楽しそうにはしゃぐゆず君がいて、それに気が付いたら、私の胸がギュって握られたみたいに痛くて苦しくなった。  「源来は違う」  「へ?何が?」  紗都里が私に視線を移して話を続ける。  「源来は、夏祭りでも、海でもちゃんと青山のこと、特別な女の子として扱ってた」  「それは…。源来君、優しいからそんな風に見えただけで。それに、私は友達じゃ無いから…」  「そう。友達じゃないから、特別な関係になれるかもしれないんだよ」  「特別な関係って…。て、言うか。何で源来君?私、好きだなんて言ってないよ」  「側にいたら分かるんだよ。青山が源来の事が好きだって事ぐらい」  「えぇーーー!いつから?どこから?」  「ずっと前から、青山が挙動不審になってから」  目を丸くして驚いていると、突然、濡れた黒い手が私の腕を掴んだ。  更に目を丸くして、掴んでいる手の持ち主を見ると、ずぶ濡れなのに嬉しそうに口角を上げて笑ってる源来君と目が合った。  「えっ?」  「なに?」  隣から紗都里の声も聞こえたけど、次の瞬間、強く引っ張られて、雨の中へ。  「えーーー!」  「一緒に濡れないと楽しく無いだろっ」  源来君が雨音に負けない声で私に言った。  紗都里も同じようにウッチーに腕を引かれ、雨の中へ。  私達は6人で、特別な雨の思い出を作った。    こんなにずぶ濡れでは電車にのれないから、私は徒歩で帰れる紗都里の家にお泊りへ。男子は同じくここから一番近い源来君の家にお泊りへと、それぞれ分かれて帰った。  一緒にお風呂に入っている間も、一つのベッドでくっついている時も、私達は恋の話を沢山した。今まで話さなかった分、話し始めたら止まらなくなって。外が明るくなり始めた頃、眠りについた。  中2の春に紗都里がゆず君に恋をした。すでに友達として側にいたから、心に秘めたまま高校生になって、恋が友情に変わる事を期待した。でも、そんな都合よく恋は変わってはくれなくて、諦めきれなくて。  揺れる心が止まって欲しくて、何度か告白しようとしたけど、やっぱり友情を壊すことが出来なかった。  「大人になって、この恋を夕弦に話せるようになった時、告白するよ」と、紗都里は自分が出した答えを、言い聞かすように話してくれた。  終わらせると決めた恋が、これ以上心を揺さぶらないようにと、涙を堪える紗都里を、私は黙って抱きしめる事しか出来なかった。  ゆず君のバカ。  紗都里を好きにならない、ゆず君のバカ!  大人の紗都里に告白されてから好きになっても遅いんだから。  こんなに可愛い紗都里を泣かすなんて、ゆず君のバカ!  心の中で、何度もゆず君に怒ったけど、只の八つ当たりでしか無くて、ゆず君は何も悪く無くて。  それが余計に、悲しかった。  
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