【3】

4/8
前へ
/27ページ
次へ
    ◇  ◇  ◇  あ、やべ。これ持ったままじゃん!  数日後、心葉を送って来た駅で彼女と別れたあと。  ホームで電車待ってるときに、俺は大学出るときに預かってそのままだったトートバッグに気づいた。  今日はちょっと荷物が多かったから持ってやったんだよな。明日持ってって渡したら、また帰りが大変になっちゃうし。  仕方なく戻って心葉を探した俺の視界には、立ち話してる彼女ともう一人。咄嗟に隠れたコンコースの柱に遮られて、すぐ傍なのに二人から俺はまったく見えてない。 「あの彼、なかなかいい男だよな」  彼女と向き合ってるのはあの見合い相手の男、だ。  この間はスーツで今日はカジュアルだし、髪形も変えてるけど間違いない。俺は自慢するほどじゃないが、人の顔覚えんのは得意なんだよ。  ……どういうことだ? 「じゅんちゃんもそう思う? 本当にいい人なのよ」 「さすが俺の心葉、見る目あるな。上手くやれよ。俺の演技もなかなかだったろ?」 「うん! さすが何でもできるよね、じゅんちゃんは」  楽しそうに喋ってる心葉の甘えるような態度に、俺は心臓が締め付けられる気がした。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加