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◇ ◇ ◇
あ、やべ。これ持ったままじゃん!
数日後、心葉を送って来た駅で彼女と別れたあと。
ホームで電車待ってるときに、俺は大学出るときに預かってそのままだったトートバッグに気づいた。
今日はちょっと荷物が多かったから持ってやったんだよな。明日持ってって渡したら、また帰りが大変になっちゃうし。
仕方なく戻って心葉を探した俺の視界には、立ち話してる彼女ともう一人。咄嗟に隠れたコンコースの柱に遮られて、すぐ傍なのに二人から俺はまったく見えてない。
「あの彼、なかなかいい男だよな」
彼女と向き合ってるのはあの見合い相手の男、だ。
この間はスーツで今日はカジュアルだし、髪形も変えてるけど間違いない。俺は自慢するほどじゃないが、人の顔覚えんのは得意なんだよ。
……どういうことだ?
「じゅんちゃんもそう思う? 本当にいい人なのよ」
「さすが俺の心葉、見る目あるな。上手くやれよ。俺の演技もなかなかだったろ?」
「うん! さすが何でもできるよね、じゅんちゃんは」
楽しそうに喋ってる心葉の甘えるような態度に、俺は心臓が締め付けられる気がした。
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