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二章
土居は都会からの転校生だ。「どこから来たの?」という問いに、僕が知らないような街の名前を言っていたのを覚えている。
ちょっと足を伸ばして服を買いに行っても手に入らない、見たこともないような服を着て、髪はツヤツヤ。大きな瞳に、大人しそうな性格。
モテるだろうな、というのが初見の感想だった。
当時、彼女が引っ越してきたのはすぐに噂になったから、水川に連れられて会いに行ったのだ。
こっちで新車なんて見ないから、太陽の光を反射する真新しい車が目印だった。
「なんでこんなとこ来たんだろうな。俺たちは出て行きたいのに」
農家の子供は農家になるのが当たり前。どこかそういう雰囲気があるものだから、僕たちも大きくなったら農家になるのだろうと思っていた。
だけどそれは、他に何かやりたいことがないというわけではいのだ。
外に何があるのかが分からない。外では何が必要になっているのかが分からない。
自分に何が出来るのかが分からない。
だから、土居の姿が眩しく見えたのかもしれない。
彼女が学校に登校を始めると、途端に彼女の情報は僕たちに共有された。
街では何が流行っているのか。どんな遊びをするのか。
僕たちは土居に多くの質問をして、彼女はそれに答えてくれた。
けれども、何度か遊んでいるうちに気がついたのだろう。僕たちは残念ながら、決定的にソリが合わない。
合わせられなかった、とでも言うのだろうか。
僕はその流れをずっと横で眺めていた。輪に入るでもなく、空気を良くしようともせず、晴れた空の下で困った顔をしている土居の姿を見ていたのだ。
携帯ゲーム機なんて誰も持ってない。
自然の中で遊んできた僕たちに土居が着いてくるのは大変だったろう。
少しずつ一緒に遊ぶ間隔が空いていき、そうして、決定的にズレた。
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