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-1- 「貴女が隣人を殺したというのは本当ですか」 「いいえ。私には殺す理由がありません」 「しかし被害者は、貴女に借金があったとか」 「ええ。ですから、庭でお茶を飲みながら返済について話す予定でした」 「そのお茶で彼は亡くなった」 「私はただ、彼のカップと私のカップをすり替えただけです――用心のために」 -2- 「栄養失調です」  医者が言う。 「心にも、栄養は必要なんですよ」  なにもかも億劫になり、ついには生きる気力もなくなった僕に。 「とりあえず今日は『多幸感』を処方しておきますね」  頭と体に電極がセットされる。 「感情も電気信号なので。徐々に脳を馴らして『リハビリ』していきましょうねー」 -3-  すずらんが咲き乱れる。無数の白い花が風にゆれる。 「この中に…?」 「はい」  親指姫よりも小さい、星屑姫の宿る花があると小鳥は言う。 「よく耳を澄ませて下さい」  さわさわという葉擦れの中に、ちりんちりんと微かな音が。 「人間だと、子供にしか聴こえないのです」  それで僕を頼ったのか。 -4-  卒業式。すすり泣く保護者たちを不思議な気持ちで眺めている。  子供は相変わらず可愛いが、困った所も多々あり、その日々はまだ続いてゆく。先を思うと泣く気分になんて到底なれない。  ずっとそう思っていた。  新学期、ランドセルを背負って下校する近所の子を見かけて、ふと寂しくなるまでは。 -5- 「先生は本当に猫がお好きですね」  自宅に何匹もの猫を飼う作家に、編集が言った。 「この子たち、みんな保護猫なんですか?」 「そうだよ。この猫の数だけ、物語がある」 「インスピレーションの元、という事ですね」  編集が帰った後、作家は漏らす。 「僕は君たちが語る話を文章にしてるだけなのにね」 『ねー』 -6-  先日入ってきた派遣さん。とても愛想がよく、くるくるとよく働く。  面倒な仕事も根気強くこなし、癖のある上司からの評価もいい。 「すごいね、頑張ってて」  休憩に入るタイミングで、声をかけてみた。 「いろんな職場に行きましたから」  彼女は言う。 「どの職場にも、もう二度と戻りたくないので」 -7- 「セミは何年も土の中で過ごして、最後のひと時だけ地上で歌う。君はその生き方をどう思う?」  また部長が妙なことを言い出した。 「地球における人類みたいなもんじゃないですか」  長い長い時の最期だけ、やたらと賑やかに騒いで儚く散る命。  きっと今も、私たちの夏が終わろうとしている。 -8-  昔の幽霊ってのは、構われたがりが多くてな。生者に気づかれたくて色々悪さもしたもんだ。  それが今や、画面を見てるやつばかり。ずっとゲームしてるヤツ、何かの視聴に夢中なヤツ、デマや中傷の書き込みに夢中なヤツ。生前と同じ行為をひたすら続けてる。  元から、現実なんて見てなかったんだろうなあ。 -9-  土砂降りの中、やっとのことで古い洋館に辿り着いた。  山の中の一軒家。どんな悲鳴も物音も、森に吸い込まれて他人の耳には届くまい。 「よく来たね。早速だが、始めよう」  友人が言った。  机の上にポテチとコーラが並び、ホラー映画大会が始まる。 「な、最高の場所だろ?」 「相変わらずだなお前」 -10- 「最近、家のアレクサが…誰も何も言ってないのに反応するんです。急にルンバが夜中に動きだしたり、勝手にスマホゲームが起動したり」 「最近どこか行きました?」 「山へキャンプに」 「たぶんその時、古い霊を連れて帰ってます」 「えっ」 「新しい物だらけなんで、はしゃいでますね」 「やめて」
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