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(咲夏さん、雪解桜さんの新作出ましたね。読みました?)
(もちろんです。カノンさんは読みました?)
(えぇ、もちろん!私、大ファンで、いつも発売前に予約して購入しているんです!もしよければ、私が管理者のコミュニティに参加してみませんか?今回は新作の『春を求めて』について語り合おうかな、と思ってるんですよ)
「ん~、どうしたものか……」
コメントの交流を楽しみながら、右の缶ビールに視線を移す。冷蔵庫でしっかり冷やした缶ビールは水滴ドレスを脱ぎ始め水溜まりを作っていた。
「全く。アピールするならカノンさんみたいに謙虚にしなさいよ」
軽くデコピンし、リングプルを親指で持ち上げる。プシュゥと爽快な音と喉を潤す冷えたビールは、暑苦しい夜を忘れさせる最高のアイテムだ。
まさか、私が雪解桜だとは思うまい。
儚い男女の恋愛を描いた3作目『スニーカーとパンプス、秋の空』が大ヒット。表舞台に顔を出したことはないが、恋愛ジャンルで固定された私のイメージに疲弊し、正体を隠して投稿サイトで発散しているのだ。カノンさんは最初にフォローしてくれたユーザーさんだ。カノンさんの作品は恋愛が中心だが、私と異なり素直な文面がキラキラしていて美しい。ビジネス社会に嫌気した私にとって、勉強熱心なカノンさんとの交流は非常に癒される。
癒されるというか……出会ったこともないカノンさんに恋をしている。
そんなカノンさんが管理者を務めるコミュニティ。誘っていただけた喜びと、生の感想を聞いてみるのも面白いかと、少しばかり興味が湧いた。
(のぞくだけなら……)
(えぇ、もちろんですよ!すごく楽しいと思います!)
(よろしくお願いします)
「はぁ。私の恍惚した表情はどうしてそんなに見苦しいのか」
パソコン先の真っ暗なテレビ画面に問う。もちろん返事はない。
カノンさんが雪解桜の熱心なファンだとは驚いた。新作についての愛に溢れたコメントは、熟読していることが伺えた。私は火照る顔を覆いつつも、何度も何度も読み直す。
これ以上、カノンさんを一方的に好きになってもいいのだろうか。恋愛作家の私は、自らの恋愛は下手糞なのだ。
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