カノン

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「よし、おっとっと……」 冷蔵庫から取り出した缶ビールの泡が零れる前に、口元に運ぶ。 「なんと……」 私は背後の壁掛け時計を確認する。たったの5分。5分後なのだが。 (確かに、前作と似ているところがあるかも) (妄想が激しすぎません?祖父に片思いしたまま亡くなったフユがハルに祖父を重ねるって、そんなことありえなくない?) (共感。最近、あの人の作品ってさ、絶対に泣かせようとする感がしんどいんだよね。ありきたりというか~) 「そうかそうか。真実を伝えないハルと、恋に素直でワガママなフユにイラっとする場面が多いと思って、喧嘩別れでスッキリさせたつもりだったけども。今は『春を求めて』のような展開は厳しいか……」 自惚れた自分を戒める感想としては最高だ。否定的な意見は重々承知だし、これほど貴重な機会なはい。受け入れる度量も多少はある。 許せないのは、管理者のカノンさんが必死に宥めようとしても、火に油を注ぐ結果になっているということだ。 (皆さん、やめましょう!私は、雪解桜さんの作品全てが好きです。夢があっていいじゃないですか!荒らさないでいただけますか?) (だから、何度も言いますが、荒らしてないですけど?感想を言うコミュニティですよね?趣旨合ってますけど) (そんな言い方ひどくないですか?私たちは、素直な感想を述べているだけです) 「カノンさんが傷つくのは心苦しいな」 カノンさんの優しさを思い出し目が潤む。いっそのこと正体を明かそうか?いや、味気ない行動は作家としてどうなのか。 カノンさんの株を上げ、なおかつ、カノンさんに対する私の株も上げる。これぞ一石二鳥。このコミュニティを私の文才で支配し、作品に仕上げようではないか。 「では、始めるとしよう」 グビッと飲み込んだビールは私の胃袋まで冷やし、酔いが回る頭を冷静にさせた。それでは、消費期限付きの作品を手掛ることにしよう。 さて、この作品の題名は…… 『ゆめうつつ』
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