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 病院が長引いて帰宅ラッシュの時間に重なってしまった。さて、こんな日は席が空いているだろうか。やがて電車がくることを告げる予告音がホームに鳴り響き、滑り込むように電車がホームに入ってくる。乗客が降りたら一斉に乗り込んでいく。  老齢の五十嵐大蔵は杖をつきながら、混雑したホームをゆっくりと亀のような足取りで歩を進めた。自分だけ時間がゆっくり流れているような感覚になる。  電車の中は、席は埋まっていたがわりと空いていた。しかしこの駅で満員電車となった。大蔵は奥へ奥へと追いやられ、優先席の前で立ち止まった。  椅子は優先席も含めて全て埋まっていた。手前の席では足を大きく広げる若いサラリーマンと思しき男性。スマホを触って周りを見ていない。大蔵が近いても気づかなかった。  ……いや、気づいていないふりをしているだけだ。スマホを見てはちらりと見てくる。ここは優先席、本来は年寄りに譲ってほしいものだが。そんなことを顔にも態度にも出しては厄介なことに巻き込まれる。  むしろ人から善意を望むのは望ましいことではない。  吊革と杖でバランスを保つ。  と、スマホから顔をあげ男性は首を回した。その拍子に大蔵のことを確かに見た。 「ち、なんだよ。何がいいたいんだよ爺さん」  爺さん。その言葉は確かに自分に向けられている。 「え? いや、なにも」
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