最高の家族

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1ヶ月が経ち、だいたいわかってきた。俺の状況を理解して優しく接してくれる両親と、見下すことが出来る存在が欲しかったのだろう。そういった家族の形が今ここにある。 父は医者として非常に高い地位におり、稼ぎが倍以上になっていた。余裕があるためか家族サービスが完璧になっていた。今までの仕事一本で子供との会話を滅多にしない人柄は何処に行ったのやら。母はあまり変わっていないが、俺と姉に対する対応が逆になった。そのためか、俺に対する態度が優しくなり居心地の悪い家という感覚は無くなっていった。姉は何もかもが変わってしまった。中堅クラスの女子大に進学し、大学の友人や人柄が完璧な社会人の彼氏と毎週遊びに行っていた俺にとって「リア充」でしかなかった姉が、大学を中退して家に引きこもって漫画ばかり描いている。彼氏とは別れたのかそもそも元々いなかったのか、彼氏の話をしようともしない。確実に俺より下の立ち位置になっていた。 俺が引きこもっている理由は「病気の治療のため」らしく、大学はいつでも復学できるようになっているようだ。確かに俺は生まれてからすぐADHDの診断を受けたが、ここでの俺はその二次障害として統合失調症と不安障害を併発してしまって学校を休学しているらしい。せっかく努力して姉よりレベルの高い大学に合格したんだ、俺としても治したいと思うようになった。昔の俺からしたら信じられないことだった。 だが、懸念点が出てきた。 統合失調症になってしまったせいなのか、幻聴が聞こえるようになった。幻聴は俺の声で、 「今すぐ戻せ」「今の家族は偽物だ」 などというものだ。そりゃ偽物だろう、と思って気にしなかった。だってこれはレンタル家族サービスとかいうサイトで借りたものなんだから。わかった上で、自分の環境を変えたくて利用した。30万も盗んで利用したんだ、偽物であろうとなんだろうと俺にとっての理想の家族で過ごさせてもらう。そう思って幻聴は無視していた。
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