最高の家族

7/9
前へ
/9ページ
次へ
2ヶ月が経った。相変わらず引きこもってFPSを楽しんでいる。幻聴がしつこいこと以外は快適だった。干渉してくる両親はいない、自分より下で落ちこぼれた姉がいる、そんな理想の家族を味わえるのはきっと今だけだからと噛み締めて日々を生きている。 だから俺はついつい甘えてしまって働いてもないし学校にも行ってないのに小遣いを要求したり、新しいゲームを要求したりするようになった。なのに文句1つ言わず、ほいと数万円の小遣いをくれる父と律儀に調べて買ってくれる母に驚いた。姉はそれを見て、 「輝ばっかりいいよね」 と言う。 「家にお金入れないくせに文句言ってんじゃないわよ、ちゃんと稼げる働き方をしなさい」 と母は言うが、姉は怒ったようにバタンと勢いよく扉を閉め、部屋に戻っていった。 「遅すぎる反抗期よね」 と母は言った。その言葉は俺が今まで言われていた言葉だった。姉は状況が違えど今までの俺そのものなのではないか?そう思うと同時に、 「いい加減に気付け」「更生しろ」「戻るんだ」 と幻聴が聞こえる。今更更生だ?学校に行かなくなって休学したことで新卒のカードがそもそも無くなってるんだぞ?俺は姉のようにはなりたくない。 「このままプロを目指すんだ!!黙れよもう!!」 と叫んだ。その叫び声を母に聞かれていた。 「どうしたの、いきなり叫んで」 「あ、あぁ、幻聴がな、ちょっと」 「ちゃんと処方された薬飲むのよ?追い込みすぎないようにね。そうだ、今度旅行にでも行きましょうか?」 旅行。俺は基本的に旅行嫌いで毎回1回はゲームができないことにイライラして癇癪を起こしていた。だが、俺は不思議なことに、 「久しぶりだね、いいよ」 と言ったのだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加