最高の家族

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3ヶ月目。旅行で熱海に来た。父と母と俺。姉はそもそも誘われなかった。それを知った姉は、 「私ばっかり除け者にするよね」 と怒ったように部屋に閉じこもった。感じ悪いなと思いつつも、俺も同じようなことをしていたような気がする。 熱海は想像以上に若者向けの楽しい街になっていた。神社仏閣や美術館とか退屈で嫌いだったはずなのに、楽しく見ることが出来た。大きくて美味しいプリンと山盛りの海鮮丼に驚き、足湯を楽しみながら海を見る。俺が退屈だと思っていたそれらは、今の家族だから楽しめるのだろう。来宮神社でお参りをしたとき、 「素敵な家族に恵まれて幸せです」 と心で唱えた。すると、 「偽物だ」「現実を見ろ」「戻ってくれ」 と幻聴が聞こえてきた。今の楽しい日々を邪魔するなと、薬を少し多めに飲んだ。 薬は効かなかった。きっとこれは病気による幻聴ではない。サービスを利用したことで消えた悪い家族の声だろう。やかましいったらない。お前らが俺を理解してくれないから、今の俺を良しとしてくれないからこうなったんだ。自業自得だ。そう頭を抱えて訴えていると、 「大丈夫?」 と母が声をかけてきた。 「あ、うん。ちょっと幻聴が…」 「大変じゃない!もう疲れたわよね、旅館に行きましょうか」 ほら、こんなに母は俺を気遣ってくれるじゃないか。今までの母はそんなことなかっただろ。 旅館に着くと、両親は先に温泉に行くと言って別行動になった。俺は窓際の席に腰掛けた。海がよく見える部屋で、風が気持ちいい。今までならこの席に座ってもソシャゲをしたりアニメやゲーム動画を見たりしていたが、今はなぜかそんなことをする気もなくなった。自然とはこんなにいいものだったのかと、自分の常識が覆るような1日だった。ふと、スマホの通知が目に入る。レンタル家族サービスの期限が切れそうだという通知だ。それは大変だ、と急いでスマホを操作する。ページには新たに、永続手続きというボタンができていた。この家族が気に入った場合はこのままこの家族を購入することができます、と記載がある。もちろん永続だと思って、ボタンを押す。 「やめろ!!!」 と幻聴が叫んだ。手続きがいくつかあるが、常に叫び続けている。100万円という金額が見えたが、父に貰った小遣いとプラスで請求すればそのくらいになるだろう。そんな金額余裕だ。最後の確定ボタンが表示された。叫び声は次第に大きくなる。 「やめろ!!!」「戻るんだ!!!」「後悔するぞ!!」「本物の家族を思い出せ!!」 「うるせぇ!!この家族が本物なんだ!」 と叫び、確定ボタンを押した。 「やめ…!」 叫び声は途切れた。なんとなく、もう聞こえなくなると実感した。 両親が温泉から戻ってきてすぐ、夕食が来た。海鮮が多めの懐石料理で、昔の俺は苦手なものたちが沢山あった。だが、今の俺なら食べられると確信していた。 「美味しそう」 と言うと、 「食べられるようになったの?成長したね」 と母に言われた。 「うん、今なら食べられそうな気がする。あとさ、俺まだ18だけど誤差だから酒飲んでみたい」 と言うと、 「匂いから無理って言ってなかった?まぁたまにはいいか」 「そうね、たまにはね」 と父が日本酒を注いでくれた。カン、と乾杯して呑む。喉が暖かくなり、独特な甘さが広がる。 「どう?」 「こんな感じなんだね」 「不味くはない?」 「うん」 と、酒と懐石料理を楽しみ温泉に入ろうと思ったが、酔いが回ってしまったようで、すぐに眠くなってしまった。 「俺、寝るわぁ」 「そっかー、おやすみ」 「おやすみー、さいこぉー」 と眠りについた。
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