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「まあ運動なんか得意でも大人になったら役に立たないからな、気にするな!」
「その通りだぞケン坊!」
酔いに任せて2人はゲラゲラと笑った。
母親はそれを冷ややかな目で見て、そっと健太に近づき目線を合わせる。
「ケンちゃん、そろそろ寝ようか?眠くなってきたでしょ?」
「……そうだね、眠たい」
母親は健太に笑みを見せた後、睨みにも似た眼差しで男2人を見やる。
祖母は「おやすみ」とだけ言って部屋を出た。
「じゃあ親父も誘って飲むか」
「そりゃいいな!」
父とおじさんもアルコールの匂いと「ケン坊おやすみ」という言葉を部屋に残して消えた。
母親はすぐに電気を消して、健太と同じ布団に潜り込む。
健太はまっすぐに天井を見上げた。
柔らかい布団が彼の背中を包み込む。
いつもとは違う寝床、健太は不安も緊張も感じなかった。
寂然の暗闇の中、自然の音色が心地よい。
別の部屋で騒いでいる父とおじさんの漏れ出る声も、安眠作用をもたらした。
「……ケンちゃん、ここに来て楽しい?」
「別に、普通」
「そう……帰りたくなったらいつでも言っていいからね」
「うん……お母さんはここにいるの嫌なの?」
「ううん、ケンちゃんがいるから楽しいよ」
「そっか」
健太は目を瞑った。
視界が暗黒に染まる。
しばらくして母親の寝息が聞こえたところで、健太は深く眠った。
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