おじいちゃんの家

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母親が苦い顔をして健太を見下ろす。 祖父も腕組みをして鼻から息を吐いた。 すると突然、チリンチリンと鈴がなるような音がする。 健太は顔をさっと上げて、音の発生源を探した。 「……どうしたの?」 「ううん……」 健太はそう言いつつも、ある場所を凝視する。 少し離れたところにある何の変哲もない緑の山。 なぜだか分からないが彼は酷くあの山に興味を抱いた。 心の内側から慰撫してくれるような音色があそこから発生したと確信したのだ。 非論理的でオカルトじみた直感だが、健太はあの山に惹きつけられた。 「……あの山はなに?」 健太が山を指さすと祖父は一瞬顔が引きつった。 だがすぐにいつもの顔に戻り、諭すように健太の肩に手を置く。 「なんであの山が気になるんだ?」 「別に、目に入ったから……」 「……普通の山だ」 「行ってみたい」 「どうして?」 「山に入ったことないから」 「ダメよケンちゃん、山は危ないんだから」 「お母さんの言う通りだ、それにあの山には毒蛇がいる」 「毒蛇!?絶対ダメよケンちゃん!!入っちゃダメ!」 きつくそう言って母は首を振った。 健太は「わかった」と言った。 しかし彼は行く気だった、反抗心からではなくただ興味が湧いたから。 それに祖父は何かを隠している、それを態度から察した。 なぜこれほどまであの山に強く興味を持ってしまったのかは本人にも分からない。 しかしこのような感情が心の中で渦巻くので、健太は何か新しい体験ができるだろうと期待する。
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