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「盆はみんな帰ってくるんだろ?」
「ああ、祭りもあるしな」
「何人くらい来るんだ?」
「子供たちも来るからな、たぶん……20人くらいだろ」
「布団あるのか?」
「それは心配ねぇ、でも飯の準備が大変だろうよ」
「いつ来るんだ?15日か?」
「いや祭りが14日からあるから14日に来る」
居間では父親たちがお盆の話を進めている。
大人数がこの家にやってくるので、色々段取りや準備を考えないといけないのだろう。
健太は縁側に座り、黙って夜空を見上げていた。
夕食をお腹いっぱい食べた後、こうやって何も考えずにぼけっとしているのもけっこういいものだ。
夜の虫が楽しそうに騒いでいる。
蝙蝠でも出ないかなと健太が考えていると、隣に母親が座った。
風呂上りの濡れた髪が風のせいで小さく揺れている。
「今日行ったひまわり畑、綺麗だったね」
「うん」
「また行こうか、今度はお母さんと2人で」
「うん」
「疲れてない?」
「疲れてないよ」
「ほんと?明日は何する?」
「まだ決めてない、せっかく来たんだし散歩でもしようと思ってる」
「そう……じゃあお母さんと行こうか」
「うん」
「……でも具合とか悪くなったらすぐに言うのよ?」
「分かってる」
「なら……いいんだけど」
母親はいつも不安だった。
愛する夫に愛する息子が一緒にいるというのに、この不安は払拭できない。
認めたくないことだが、彼女は息子を完璧に理解できているとは言い難い。
それが許せないのだ、誰よりも息子のことを想っているのに手探りで糸を紡いでいく作業に。
そして……息子のことを許せない気持ちも混然としている。
彼は何も開示してくれないから……寄り添っても透き通って触れられない、触れようとしてくれない。
母は虚ろに星を見た、息子も同じ星を見た。
近くにいるようでその間には海溝のような溝があるのか?
母親は分からなくなっていく。
言葉に邪魔されない夜に、2人は広がる星空を見ることで心を繋ぎとめた。
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