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「何してるの?」
「え?」
健太は蛇が話したように思えた。
しかし蛇は人間の言葉を話したりしない。
小麦色の手に掴まれた蛇は、その手に胴を巻きつける。
噛もうと抵抗するが、首根っこを押さえられて抵抗もできない。
恐る恐る健太は視線を上に動かした。
白いワンピースを着た少女が、訝しげにこちらを見下ろしている。
「……君は?……それより危ないよ!」
少女は表情を変えず、勢いをつけて腕を振った。
蛇は簡単に離れて、茂みの中に逃げていく。
「大丈夫?」
「え?……うん、大丈夫」
脅威であるはずの危険生物、蛇を簡単に触り自分から遠ざけてくれた少女。
その勇姿に呆気にとられた健太は、尻を持ち上げ立とうとしたが、足が震えて上手くいかなかった。
女の子は健太の手を握り、「よいしょ」と言って両手で引き上げた。
つんのめった健太の体は、寄りかかるように少女の胸に顔を飛び込ませた。
ほのかな胸の膨らみは鼻の先を包み込む。
「ご、ごめん」
「別にいいけど」
すぐさま彼女の体から離れた健太はまず乱れた服を直し、ついた土をはたいた。
そして今しがた自分を助けてくれた女の子を観察する。
まずじっと顔を見て、それから全身を見た。
よく日に焼けた褐色の肌、顔は目がくりくりと大きくて、左右は均整がとれている。
鼻はやや高く、唇は薄いがピンク色で健康的だ。
田舎特有の芋くささはなく、化粧などはしてないが個人として女性として洗練されている。
衣服は白いワンピースで、足元も白いサンダルを履いている。
髪はショートで、艶がある黒色。
前髪は眉の上くらいである。
「助けてくれてありがとう、もうダメかと思った」
「……君ここで何してるの?」
健太のお礼にも応えずに、少女はさらに訝しげに質問する。
「山を登ってたんだ」
「どうして?」
「どうして?……登りたかったから」
「……変な子ね、お母さんたちにこの山には入っちゃいけないって聞いてないの?」
「聞いた」
「じゃあ悪い子だ」
「僕は健太だよ、君は?」
女の子はさらに怪訝な顔をした。
健太は自分の罪のないように、しっかりと少女の目を覗き込んでいる。
「……さっちゃん」
「さっちゃん?本名なの?」
「違うけど……みんなそう呼ぶから」
「分かった、さっちゃんよろしくね」
「うん……よろしく」
健太は手を差し出した、さっちゃんは一瞬躊躇ったが素直に握手に応じる。
ひんやりとした冷たさが、健太の昂った体温を奪った。
「それで君はここで何してたの?」
「なんでもいいでしょ」
「もしかして君もあの鈴の音を聞いたの?」
「鈴の音?何のこと?」
「そっか、じゃあ……友達がいないの?」
「なんでそういう話になるのよ」
「友達がいないから独りで遊んでるって思ったんだ」
「別に……そういうわけじゃない」
「じゃあどうして?」
「どうしてあなたの質問に答えなきゃいけないの?」
「答えなくてもいいけど……答えてほしいんだ、気になるから」
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