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健太は屋台で買ってきた食べ物をさっちゃんに分け与える。
一緒にもぐもぐと温かい粉ものや甘味、ジュースに舌鼓を打った。
食べながらゆっくりと会話をして、虫の声に耳を澄ます。
聞こえてくる祭りの声は遥か遠くで、自分たちにはもはや関係のないもののように思えた。
健太は確かに多くの人との繋がりに憧れ、それを永遠に寄り添うものに出来たらいいという願いがある。
しかし……今隣で自分に微笑みを見せてくれる彼女の存在こそが、健太という命を輝かせてくれる。
そう断言できた、決して長い時間を生きていない健太は経験によるものでも明晰な頭脳によるものでもない、もっと違う感情によって判断できた。
愛なのか好きなのか健太には全貌が掴めないが、とにかく彼はこの時間こそが今まで生きてきた中で最良で幸福な瞬間だと納得できたのだ。
「君といる時間は楽しいよ、ずっと君といたい」
「私も、健太とずっと一緒にいたいな」
「手を繋いでもいいかな」
「今更なに?今までも繋いでたでしょ」
「そうだけど……許可をとらなきゃ」
「どうしたの?健太変だよ?」
さっちゃんは健太の手を取って、肩を触れ合わせた。
ごくごくとジュースを飲んですぐに俯いた健太は、うっすらと汗をかき鼓動を速くする。
「やけに喉が渇くんだ」
「ちょっと暑いからね、今日は風もあんまり吹いてないし」
「うん、夏の暑さのせいだよ」
「ん?何が?」
健太はゆっくりとさっちゃんに向き直した。
彼女は目を逸らさない、自分を慕い、自分を大切に想ってくれる男の子が愛おしいから。
自然にほころんだ口元を見せて、健太の頬を指で触る。
熱が駆け巡る少年の肌は柔らかく、表情は硬い。
「……いつまでいるの?」
「たぶんだけど……夏休みが終わるまで、それより早く帰るかもしれないけど」
「そう……寂しいね」
「うん、だけど今すぐ帰るわけじゃない、それに何度でも僕はここに来るよ」
「ふふ、ありがと……帰ったらどうするつもり?」
「友達を作ってみるよ、今まで向き合ってこなかった自分を変えるために……それともっと人生を楽しむために……君に教えてもらったことだよ」
「そっか、私も嬉しいよ」
「僕……たくさん友達を作るよ、本当の友達をいっぱい……友達が多ければいいってわけじゃないってことは分かってる、だから本当の友達……僕を導いてくれて、僕も導いてあげたい……君のように」
健太は湿った手で強く彼女の手を握ってみせる。
もう間違えたくなかった、先延ばしにはしたくない。
彼は正面からぶつかる勇気をこの短い夏休みで学んだ。
「この先どんなに友達が出来ても、君が僕の最初の友達だ……もしも会えなくなったとしても君は1番の友達だ、ずっと僕の心の中でいつまでも輝き続けるだろうね」
「君はいい男だね……」
さっちゃんは嬉しくなって、彼の肩に頭を乗せる。
女の子の匂いが漂い、それを吸った健太はしゃんと背筋を伸ばした。
「ねえ健太、ずっと一緒に居たいな」
「……じゃあ結婚する?」
さっちゃんは口に手を当てて笑ったが、健太はこの上なく真剣だった。
「君が好きださっちゃん……冗談じゃないよ?君といるとドキドキするし、手を繋ぎたいって思える……これが恋というものじゃないかな?」
「……そうだね」
「君のお父さんが許さない?」
「たぶん……」
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