少年の夏

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「ああ、楽しいか?」 「別に」 「別にってなんだ?」 「別に楽しくない」 「……どうして?」 「……どうして?うーん、学校は楽しむようなところじゃないから」 「……友達はいるのか?」 「定義による」 平常運転の健太に、おじさんは目を丸くした。 調子がつかめず祖父も困惑している。 祖母だけはニコニコと笑っていた。 「定義って……ケン坊難しい言葉知ってるな」 「国語辞典で覚えた」 「お、おう……国語辞典……そんなもんおじさんは読んだことないな」 「ケンちゃんは賢いねぇ」 「へへほんとだぜ、母親の血が濃いんだろうな」 「まあウチからは賢い人間なんて生まれないだろうし」 また2人は笑った。 祖母はニコニコ笑っている。 母親はバツの悪そうな表情だ。 そして健太と祖父は、今だ瞳を交差させている。 「健太……健太が本当に友達と思えるような子はいるか?」 「……親友?」 「そうだな……親友だ」 「いないよ」 「そうか……寂しくないか?」 「うん、お父さんとお母さんがいるから」 「け、ケンちゃん?ちょっとお母さんと散歩に行きましょうか?」 雰囲気の雲行きが怪しくなってきたので母親は慌てて提案した。 健太は首を横に振る。 「今日はいい、まだおじいちゃんたちのお世話になるんでしょ?……それに疲れた、お母さんも疲れてるだろうし……今日はいい」 「そ、そう」 母親は声音を暗くして、健太との物理的な距離を縮めた。 母親似のかわいい顔、父親に似た整った眉と輪郭、白い肌、それに適度に厚い唇と涼し気な目。 父も母も健太を愛している。 だが彼のあどけない……子供の顔を見たいと母親は思っていた。 環境のせいではないはずだ、彼女は縋るようにその推察を胸に秘めている。 確かに誰のせいでもない、健太は同世代の子供たちよりかなり大人びている。 子供特有の無邪気な欲望というものがない。 子供特有の傲慢と弱さも持っていない。 そのことが心配だった、そのことで一人息子への愛情は増幅していく。 彼女は健太を愛していた。
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