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おじいちゃんの家
「ほら、チーンするんだよチーンって」
「うん」
もう日が沈み、月が出た暗い夜。
健太は座敷の仏壇の前に正座し、りん棒でおりんを優しく叩いた。
「チーン」という小気味よい音が帰ってくる。
健太は手を合わせて目を瞑った。
隣に座る祖母も同じように手を合わせる。
「ケンちゃん、おばあちゃんの料理美味しかったかい?」
「うん、美味しかった」
「そうかいそうかい、嬉しいねぇ」
夕食を食べ終えた後、健太は祖母と一緒に夕涼みをしていた。
座敷の窓や扉を開けられ、風と小さな虫が侵入してくる。
そして窓のそばに置かれた蚊取り線香の匂いも。
「ケンちゃんは何が好き?」
「食べ物?」
「うん」
「そうだね……ウインナー?」
「ソーセージ?……ふむ、冷蔵庫にあったかねぇ、あったら明日の朝出してあげようね」
「ありがとうおばあちゃん」
素直にお礼を言う健太の頭を、祖母は撫でた。
おじさんは妻がいない、だから初めての孫である。
彼女は健太が人を殺しても、頭を撫でてやるだろう。
それほどまでに祖母も健太を愛している、ほとんど初対面に近い存在だが孫というのはそれほどの力があるのだ。
「おいケン坊、アイス食べるか?」
「……食べない」
「どうして?うまいぞ?」
父親は座敷に顔を出して、両手のひらをくいくいと動かす。
一緒に食べようという合図だ。
「夕食の後にお菓子を食べるのはよくないってお母さんに言われてるから」
「あーそりゃわかるけどアイスはお菓子じゃないだろ?アイスはアイスだからお菓子じゃない、だから食べてもOKだ」
「アイスはお菓子だよ」
「たまにはいいんだよ、お母さんも今日は食べていいって」
「そっか、じゃあ食べるよ」
祖母は離したくないのか健太の手を握っていたが、繋がりはすぐに絶たれる。
「行ってくるね」と淡泊に祖母のそばを離れた健太は父に付いていく。
暖簾をかきわけた父の背中ごしに見えたのは、アイスの袋を持ったおじさんだった。
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