おじいちゃんの家

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「ケン坊、何味食べたい?」 「何味があるの?」 「あー……ソーダとチョコとミルクだな」 「ミルクがいい」 「そうか、こっちこいよ」 健太はふと疑問を抱いた。 今自分の立っている場所を観察する。 10人が並んで座れそうな細長く大きなテーブル、その上には丸椅子が逆さ向きで置かれている。 そして奥にはキッチンというより小規模な厨房があった。 平凡な家庭でこれだけの設備は必要ない。 「この家は昔お店だったの?」 「ああ、昔は旅館……まあ旅館つっても大層なもんじゃないが人を泊めてたらしいよ」 「今はやってないの?」 「客も来ないしな、おじさんが生まれた時はもうやってなかった」 「ふーん」 納得した健太は手招きをする父親の後を追い、厨房の中に入った。 サンダルを履いて、人目が届かない隅に移動する。 テーブルから丸椅子を三3脚持ってきたので、それに座った。 健太は脚が床に届かないので、ちょこんと尻を乗せて整えた両足を浮かしている。 「なんだよ、なんでここで食うんだ?」 「麗子に見つかりたくない」 「奥さんに?どうして?」 「あいつ健太にお菓子食べさせると怒るんだよ、体に悪いとか太るとか言ってな」 「アイスくらいいいだろ」 「お母さんは食べていいって言ったんじゃないの?」 「ああ、嘘だ」 悪戯がバレた子供のように笑う父親の姿を見て、健太も頬が柔らかくなる。 「ちょっと過保護すぎねぇかぁ?」 「まあな……健太、お母さんは別にお前に意地悪をしようと思ってるわけじゃないんだぞ?ただ……お前のことが好きだからやってるんだ」 「わかってるよ」 「……そうか、ならいい」 父親は珍しく作り笑いを浮かべた。 おじさんはきょとんとしてソーダ味のアイスを舐めている。 健太も久ぶりの冷たいアイスをかじって、ミルクの感触を咀嚼した。
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