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楽しい放課後
キーンコーンカーンコーン……
「四時間目しゅーりょーっ! 放課後ターイムッ!」
さっきの地獄の自己紹介も平然とした態度でなんとかやりきった……。何も考えずに挑んだけど、けっこうイケるもんだね。流石わたし。というか、菜々ちゃんの自己紹介凄かったなぁ……、「誰か放課後遊びませんか!」とか言ってた気がする。誰か来てくれたかな……。
初日は難なく終わった。担任の先生も優しそうな雰囲気の方で良かった。しかも今日は課題なし! 開放感っ!
ウキウキ気分を隠しきれず、新品の教科書をバッグに詰め込みながらニタニタしていると、隣の菜々ちゃんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、はるちゃんさん」
「どうしたの?」
「あのですね……、そのぉ……。」
「ん?」
「放課……ゴニョゴニョ……。」
「放火!?」
「ちっ、違います! 違くてですね……。そのぉ……、放課後暇ですか……?」
「あぁ、そゆことね。んー、暇っちゃあ暇だけど……」
「ほんとですか!?」
「うん。でもどこ行くの?」
「私の家です!」
「家!? なんで?」
「んふふっ……」
「おーい?」
ってまぁそんなわけで、私はどうせ暇だしついていくことにした。
また農業高校の広さに圧倒されつつ、校門にたどり着いた。道中はほとんど話さず、少し気まずい。何話そうか……。
「ここさ、ほんと広いよね」
「ですよね! 道に迷ったら死んじゃいそうです」
「ほんとそれ! あ、てか家はどこらへんにあるの?」
「えっとですね、ここからバスに乗って駅に行き、そこから40分ほど電車に乗れば家につきます」
「へぇ、結構遠いね。てかさ、うちら多分家近いよ! 私もそんくらいのとこに家ある!」
「ほんとですか!? 凄く嬉しいです! 一緒帰れますね!」
「ね! 私も一人で帰るのは怖いし、寂しかったのよー」
「夜とかは怖いですもんね……、一緒帰りましょう!」
菜々ちゃんは満面の笑みで元気よく答えた。
私はいつも電車では本を読んでいる。ヒューマンドラマ系の本を主に読んでいる。ファンタジー系もたまには読むのだが、少し苦手だ。冒険系は好きだが、いわゆる萌系ってのが苦手。現実を見ろ、とすぐ思ってしまう。ひねくれてんなぁーと自分でも思う。
隣にいる菜々ちゃんを横目で見ると、菜々ちゃんも本を読んでいた。香月日輪さんの妖アパだ。私も前は読んでいたなぁ〜と、懐かしんでいると、いつのまにか目的の駅に着いていた。本読んでいると、時間をワープした感覚になるよね。
私達が住むこの町は、古い住宅が所狭しと並んでいる。寂れた商店街には、一つ小さなスーパーがあるだけ。あとは見渡す限りの田畑だ。
改札を通り外に出ると、しとしとと雨が降っていた。
「あちゃー、雨降ってるね」
「ですね……、じゃあ走りますか! こっちです!」
菜々ちゃんは走り出した。いやいやいや、待ってよ!
「ちょっ! まって! 教科書濡れる!」
「だから走るんですよー! こっちです!」
そう言うと菜々ちゃんは、商店街に向けて走り出した。
ものの3分で商店街に着いた。町の小ささがここで役に立つ。
商店街には屋根があるため、私達はぷらぷらと歩きだした。
私はここの寂れた感じが好きで、たまに来る。ほぼすべてのお店にシャッターが降りているが、その感じもまた好き。あれ、菜々ちゃんちはどこだ?
「ねぇ、菜々ちゃんちはどこらへんにあるの?」
「もうすぐですよ! あ、ほら! ここです!」
菜々ちゃんが指を指した場所は、商店街の路地裏だった。
「……ここのどこ?」
「奥です! 蜘蛛の巣があるので気をつけてくださいね!」
「うっ、うん……」
菜々ちゃんはずんずんと奥に進んでいった。やっと一人入れる程度の横幅なのに。これが慣れってやつか。
「うわぁ……、蜘蛛の巣が顔についたんやけど……」
「あー、私もよくやっちゃいます。なんか気持ち悪いですよね」
「うん……、しかも取りにくいしね……」
「ですよね……、あ、もう着きます!」
狭い路地裏を抜けると、テニスコート半面くらいの土地に、ちょこんとした家が建っていた。トタン屋根で、家というよりは秘密基地だ。
辺りは大きな建物に囲まれているため日当たりも悪く、商店街に戻る道はさっきの狭い路地裏しかない。
印象強いのは、ちょこんとした家の近くに堂々と立っている、桜の木だ。
辺りの建物よりも背が高く、この商店街を見下ろしている。
「あ、この桜の木凄いですよね! 私はいつも、この木の根本で本を読んだりしています」
「え! めっちゃいい! 素敵だね! 憧れるなぁ」
「ふふっ、ありがとうございますっ。では家に入りましょうっ」
ガラガラガラッと玄関を開けると、すぐに目に飛び込んできた物は本棚だった。この家は一部屋しかないらしく、トイレもない。本棚は、家の壁中に設置されており、その中の本は、きちんと整理されている。家の真ん中には布団が引かれており、ここでは、寝るか、本を読むか、しかしないようだ。
「めっちゃ凄いね……! こんなに本あるの初めて見た! うちね、母親が本を嫌うから、うちで本を置けないの。さっき読んでた私の本も、こっそり買ってきて読んでたやつなの」
「そうだったんですね……、私、学校ではるちゃんさんが本を読んでいたから、絶対本好きだよなぁ〜って思って、一人で凄く喜んでたんです。それで一緒にここで読めたら楽しいかなと思って……。どうでしょうか……」
「いいの!? ありがと! めちゃくちゃ嬉しいっ! 毎日来たいよ!」
「是非是非! 来てほしいです!」
「ありがとう菜々ちゃん……!」
菜々ちゃんは私の救いなのかもしれない。あの重苦しく、つまらない世界から私を連れ出してくれる。そう思った。
「菜々ちゃんはここで一人暮らししてるの?」
「はい。バイトをしながらなんとか暮らしてますよ」
「バイトのお金で足りてる? お母さんとかからお金を送って貰えてるの? 私を頼ってね! こういうのはめちゃくちゃ言いづらいけどさ……、なんとなく菜々ちゃんちの状況が分かるからさ。そんときは私を頼ってね。力になりたい」
「……ありがとうございます。あの……、私は……。両親から逃げてここに引っ越したんです……」
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