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小さな小さな幸せ
「よしっ、じゃあまずはバイトだね。どうしよっか」
「ですね……、とりあえず、担任の先生に聞いてみましょう!」
「だね。大人のスネをかじっちゃお」
「えへっ、ですね!」
今日は解散し、家に帰ることになった。
狭い路地裏を抜けて、閑散とした商店街に出た。唯一あるコンビニでお茶とおにぎりを2個買い、誰もいない我が家に向かった。
商店街を出て、雨の香り残る道を駆け足で進んだ。水たまりも気にせずに飛び越えた。これから起こる厄介事も、水たまりを超えるように、飛び越えられたらいいな。
私のうちはアパートの2階にある。極狭オンボロアパートだ。ここの大家さんはクソジジイで、何度か勝手にうちに上がりこんで、私の下着を物色していた。警察に訴えたが、お役所仕事で済まされてしまっている。こんなクソジジイのいるアパートも今日で終わりだと思うと、晴れやかな気持ちになる。
立て付けの悪いドアを開け、私はうちの玄関に入った。
畳に新品の教科書が詰まった鞄を置き、私はお布団に転がり込んだ。
「はぁーっ、つかれたっ。今日は凄かったなぁ」
独りに慣れると独り言が多くなる。学校では気をつけているが、家では気が抜けて出てしまう。菜々ちゃんの前で出ちゃったらどうしよう……。気をつけよ。
うちにはテレビがなく、主な情報源はスマホだ。うちからの出費はスマホ代だけだと言っても過言じゃない。いつもはスマホでニュースを見るのだが、今日は部屋の整理をした。必要な服をキャリアケースに入れ、細々とした生活用品はビニール袋にまとめた。
一応、クソジジイのために置き手紙を書いた。急に居なくなったら流石に心配かけるし、警察呼ばれると面倒だ。
さっきコンビニで買ったお茶とおにぎりをエコバッグから取り出し、作業のようにさっさと食べ、また荷物を詰める作業に取り掛かった。
明日の学校はレクリェーションだ。また午前中で学校は終わる。そうしたら菜々ちゃんのところに私の荷物を置きに行こうかな。
学校の準備も済まし、中学の頃のジャージに着替えて、9時にはお布団の中に入った。お風呂は明日入ろ。
目を閉じると、お母さんとお父さんの姿が見えた。両親と暮らしたこの極狭オンボロアパート。悪い思い出も多いが、両親との思い出が詰まった家。
「はぁっ……。またお母さんとお父さんに会いたいなぁ……」
私はポツリと呟いた。
泣きたくないのに。私の目からは、涙が押し寄せてきた。今まで我慢していた涙のダムが、決壊したのかもしれない。
「お母さん……、お父さん……。私ね……、ここ出ていくよっ……。友達と一緒に住むの……」
涙と鼻水のせいで、上手く息が出来ない。
「私ねっ……。お母さん達に産んでもらえて幸せだったよっ……。大好きっ……!」
私はお布団に抱きついた。涙と鼻水で、お布団はぐちゃぐちゃだ。でも、私はぎゅーっと抱きついた。少しでも、お母さんとお父さんの温もりを思い出したかったから。
私は泣きつかれたのか、いつの間にか、深い夢の世界に入っていった。
ぴりりりっ。ぴりりりっ。
……ん? なんだっけ。……あっ! 学校だった!
窓の外を見ると、菜々ちゃんが立っていた。
「おそーーーーーいっ! はるちゃんさん! 遅刻ですよ! 10分で着替えてきて下さい! 朝ごはんは私が作ってきましたよっ!」
「ごっ、ごめん! すぐ下行く! ありがと菜々ちゃん!」
朝からドタバタだ。お母さん達がいた頃は絶対に起こらなかったこと。まぁ、これはこれでいいかな。と、思う。
終わりよければ全て良しだしね。
「よしっ! 今日も頑張ろっ!」
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